<春を駆ける・2020センバツ>チーム紹介 航空石川 実戦想定し犠打練習 粘り強く得点する野球へ /石川
「打線に力がない。1点をどう取るかの野球」。中村隆監督(35)が率直に話すように、日本航空石川は派手さはないが犠打や走塁などを確実に決める試合運びで北信越大会準優勝を勝ち取り、2年ぶり2回目のセンバツ切符を射止めた。 【動画】センバツ出場校、秋季大会熱闘の軌跡 打撃が売りだった一つ上の世代から代わった新チームは発足直後から、犠打や走塁などの練習に全体の3割の時間を費やした。バント練習では、無死一、二塁や無死二、三塁と実戦を想定したケースを決め、打者が選択できるのは、バントとバスターエンドランのみ。エンドランでは野手の間を転がす打球を徹底するため、内野手の後ろに置いた高さ3メートルのネットを越えないのがルールだ。むだなアウトカウントを増やさずにいかに点を取るか、をチーム全体に浸透させている。 北信越大会準々決勝の敦賀気比(福井1位)戦、三回表無死三塁で打席に立った中谷仁人捕手(2年)にスクイズのサインが出る。8番打者は確実に相手捕手前に転がし、「この1点は大きかった」(中村監督)と振り返る先制点が入った。これを足がかりに北陸屈指の相手右腕を打ち崩し、7―3で快勝した。 中谷捕手にはバントに苦い思いがあった。8月の大阪桐蔭との練習試合で犠打のミス。「自信があったのに、がっかりした」。その後、毎日の自主練習で40分程度をかけバントの確実性を高めた。 そもそも、チームの滑り出しは順調すぎるほど順調だった。2019年8月の練習試合でともにセンバツに出場する健大高崎(群馬)や天理(奈良)などの強豪相手に勝ちを重ねる。「(自分たちは強いと)変な勘違いをしていた」(井口太陽主将=同)チームが鼻っ柱を折られたのが8月末にあった敦賀気比との練習試合。捕逸などミスが重なり、1―8で七回コールド負けを喫した。 「こんな負け方でいいわけないやろ」(中村監督)。学校に戻ったその夜から50メートル走、腹筋や背筋などの体幹トレーニング、ノックに素振り……。張り詰めた空気の中で練習が続いた。 「緩んでいた気持ちが引き締まった」と選手らが振り返るあの練習を、中村監督は「一つの試合に負けても甲子園は行けない、ワンプレー、1点にこだわれと伝えたかった」と説明する。その後の練習試合8試合では全勝。流れに乗って公式戦に臨んだ。 1点を争う野球に欠かせない投手陣の安定にも明るい材料が出ている。秋季大会ではエースの嘉手苅(かてかる)浩太投手(同)が肘や腰を痛める苦しい状況の中、背番号10をつけた田中颯希投手(同)が全9試合に登板し、3完投で貢献した。「嘉手苅がけがをしている以上、自分が抑えて勝たなきゃいけない。どこが相手でも抑える」と田中投手。「投球練習ができず、焦る気持ちはあるが我慢の時期。センバツでは150キロを投げる」と、嘉手苅投手も順調な回復を見せている。井口主将は「守備からリズムを作って、粘り強く、1点ずつしっかり取る野球をする」。2年前、初出場のセンバツで8強入りした先輩たちの歴史を新たに塗り替える日に向け、汗を流している。【井手千夏】