世界は〝トランプシフト〟を済ませた メローニ伊首相はキングメーカーに「極右」との妥協を図らざるを得なくなった欧州委員長
【宮崎正弘 世界大混乱・悪の論理】 EU(欧州連合)の立法機関である欧州議会の選挙(6月9日開票)は大混乱となった。票を開けてみれば予想通り、左翼系が大きく後退し、保守勢力が大躍進した。左翼メディアは「極右」と悪く印象操作するが、EU諸国の保守政党は順調に票を伸ばした。 頭に血がのぼったフランスのエマニュエル・マクロン大統領は下院選挙を強行する(第1回投票6月30日、決選投票7月7日)。多分、マクロン氏率いる中道与党「再生(RE)」は惨敗し、「極右」と呼ばれるマリーヌ・ルペン党首率いる「国民連合(RN)」が第一党となる勢いがある。 ドイツのオラフ・シュルツ政権や、米国のジョー・バイデン政権、英国のリシ・スナク政権と同様、マクロン政権も「レームダック(死に体)入り」する。岸田文雄政権は、とうにレームダックだ。 すでに昨年秋あたりから、EU諸国は「トランプシフト」を敷いて、ドナルド・トランプ前米大統領の返り咲きに備えている。3月に米南部フロリダ州でトランプ氏と会談した、オルバン・ビクトル首相のハンガリーだけでなく、NATO(北大西洋条約機構)も防衛分担増要求に身構えている。 「正義の人」とされたウクライナのウォロディミル・ゼレンスキー大統領支援にも、くっきりと温度差が出てきた。 バルト三国、北欧はロシアが近いから「ウクライナ断固支援」だが、オランダ、スペイン、イタリアの本音は「もう、いい加減にしてくれ」だ。 EUは在欧ロシア資産を凍結してきたが、その利息分を勝手に〝着服〟して、ウクライナ支援に回すというのだから国際法に適合しない。 ドイツでは、不法滞在者で難民と認定されなかった移民が激増している。シュルツ首相は6日、重い腰を上げ、凶悪犯罪を起こした外国出身者の国外退去措置を強化する意向を表明した。 パリとベルリンが影響力を失う危機にひんする一方で、他のEU首脳は影響力を高める機会をうかがってきた。 特に、ウクライナ戦争で仏独枢軸が弱体化する中、イタリアのジョルジャ・メローニ首相や、ポーランドのドナルド・トゥスク首相、エストニアのカヤ・カラス首相といった政治家が、EU政治の舞台で新たな実力者として台頭した。