「リアルだった」荒ぶる少年少女の生き方から人生観も学んだ…紡木たく『ホットロード』の魅力
■リアリティのある美しい絵、和希と母親の関係にも目が離せない
本作の魅力の一つとして挙げられるのが、紡木さんの描く独特な美しい絵だ。 80年代の少女漫画といえば、キラキラとした大きな瞳にフリルのついた洋服を着ているヒロインが登場する作品も多かった。しかし紡木さんの描くキャラクターは現実にも存在するような女の子であり、それが逆に読者にインパクトを残した。個人的には70年代に活躍した画家・いわさきちひろさんの作品を彷彿とさせるような柔らかなキャラクターの描き方が特徴的であったように思う。 また、和希と彼女をひとりで育てた若き母親との関係からも目が離せない。 和希は2歳のときに父親が亡くなり、それ以来ずっと母親と暮らしている。しかし母は高校時代の同級生である鈴木と長く不倫関係にあり、娘の非行に対して見て見ぬふりをすることもあった。そのような家庭環境で育った和希は常に孤独を感じており、母親と対立するシーンも多かった。 こうした複雑な母娘の関係は現在でも見られるものだろう。『ホットロード』を今読み返してみると、シングルマザーの苦悩や母娘との関係について考えさせられてしまう。またこの2人の関係は、物語終盤に劇的な展開を見せるのにも注目だ。
■単なる両想いでは終わらない…和希と洋志の行く末は?
『ホットロード』での一番の見どころは、やはり和希と洋志の恋の行方だろう。しかし単に両想いになって完結という単純なストーリーではないのだ。 物語終盤、NIGHTSのリーダーとなった洋志は、敵対する暴走族との対決へ単車を走らせる。しかし大型トラックと衝突し5mも宙を舞い、一時期は意識不明に陥ってしまうことに……。心配するあまり倒れてしまう和希。しかし洋志はその後なんとか意識を取り戻し、2人は病院で喜びの再会をするのだ。 しかし洋志は徐々に回復しつつも、左半身に麻痺が残ってしまう。さらに退院と同時に鑑別所に収監され、収監を終えて和希のもとに戻ってきてもなかなか仕事は見つからなかった。そのような状況のため、洋志と和希の行く末は喧嘩や別れ話を繰り返していることが説明されている。綺麗事だけではないこの展開は、かなりリアリティがあるだろう。 物語のラストでは手足に障がいを負った洋志が一歩ずつ自転車を漕ぎ、ゆっくり前に進んでいく様子が描かれていた。人生は長く、自分がやったことへの責任は自分が背負うしかない。『ホットロード』は単なる恋愛漫画ではなく、そんな人生観をも教えてくれる作品のように思う。 『ホットロード』には、このほかにも洋志の先輩にあたるトオルやその恋人・宏子、和希を気遣う担任の教師や洋志の異母弟など、魅力的な登場人物が数多く登場する。彼らそれぞれが抱える葛藤や立場が丁寧に描かれており、物語に深みを与えている。 また、今読み返すと“あの頃はこんな文化が流行っていたな”と、当時の空気感や懐かしさを感じさせてくれる作品でもある。昔、夢中になって読んでいた世代の人にも、初めて見る人にも、ぜひ手に取っていただきたい名作だ。
でかいペンギン