「いまは健康だからいいけれど…」終の棲家に高級老人ホームを選んだ夫婦の誤算 「中身はハリボテ」だったり「残念な看取り」が横行するケースも散見
入居者同士がマウントを取り合うケースも
『ルポ 超高級老人ホーム』の著者で、ノンフィクションライターの甚野博則さんが指摘する。 「“手厚い介護”を売りにする老人ホームが多いですが、見た目だけではわかりません。介護施設は入居者3人に対し常勤職員1人以上といった人員配置基準があり、手厚い介護をうたい文句とする施設は、この基準を超えた人数を配置するケースが多い。しかしそれは職員の“数”が増えるだけで、“質”が低ければ介護は手厚くなりません」 甚野さんは取材のため、入居一時金が数千万円から4億~5億円もする「超」がつくほど高級な老人ホームを訪ねて回った。一見すると至れり尽くせりの桃源郷のようでも、中身は「ハリボテ」の施設は珍しくなかったという。 「建物や眺望、内装は優れていても、コスト削減のためレストランで出すうなぎをこっそり中国産に変えるなど、入居者から見えない部分で手を抜く施設が多かった。サービスはどこも似通っていて、スーツを着たスタッフがホテルマンのように頭を下げて迎え入れてくれますが、それが入居者の幸福度とどの程度結びついているのかは正直なところ、わからない。 入居者同士がマウントを取り合い、管理組合のメンバーが入居希望者の選定に口を出すなど、“終の棲家”として居心地がいいとは思えない施設もありました」(甚野さん)
健康な人から要介護の人まで住める施設は少ない
介護・暮らしジャーナリストの太田差惠子さんも「介護施設は選び方を間違えれば後悔のもとになる」と話す。 「まだ元気で体が動くうちから安心安全のため、自分の意思で“施設で暮らしたい”と希望する人は増えてきました。 しかし、自立した状態から要介護の人まで住むことのできる施設は実はそんなに多くない。健康な人を対象としたホームの場合、体調を崩して介護が必要になった時点で介護付き施設に移る必要があったり、サ高住(サービス付き高齢者向け住宅)も基本的に自立した人が対象で、認知症などが進行すると退去を促されます。“元気なうちに入居した施設で人生の最期を迎えられる”と考えていると、体調を崩した時点で手痛いしっぺ返しを食らうことがあります。 24時間介護付きで元気な人も入居できる『混合型』の施設もありますが、健康でまだ現役の人ほど車いすや寝たきりの人との同居になじめず、環境は整っているはずなのに強いストレスを感じ、転出するケースもあるのです」 落とし穴はそれだけではない。甚野さんは、高級ホームの「看取り」に強い違和感を抱いたという。 「多くの高級老人ホームは『ウチは看取りまでする』とアピールしますが、うのみにはできません。実際、私が取材した施設では、要介護が進むと住み慣れた部屋から追い出されて、別の介護施設に移されるケースが散見されましたし、敷地内に介護棟や介護施設があるのに、死期が近づくと救急車で病院に搬送されて亡くなる事例も多数ありました。 自分の部屋で穏やかに旅立てると信じていたのに実際には病院で管につながれ息を引き取ることになる。施設のいう“看取り”とは何かと考えさせられました」(甚野さん) では、住み慣れたわが家の環境を整え、終の棲家とすれば心安らかな最期が待っているかと言えば、そこにも落とし穴がある。後編記事では、その点についてレポートしよう。 (後編につづく) ※女性セブン2024年10月24・31日号