プロレス復活の立役者、棚橋弘至 “猪木問答”で貫いた信念今も変わらず
負のイメージを刷新
だが、“100年に一人の逸材”はその言葉を自身のレスラー人生を賭して証明していく。 従来の“強さ”を最優先にアピールしていたプロレスラーのイメージを刷新するかのように、明るいキャラクターを前面に押し出し、それまでプロレスとは距離を置いていた女性を中心に新たなファン層を拡大。その活躍はリングの枠を超えて、テレビの情報番組やバラエティー番組にも出演し、その肉体美が女性誌のグラビアなどでも取り上げられるようになった。 「昔からのプロレスのイメージが、ちょっと足かせになっていた部分もあったんです。例えば、プロレスを知らない女性の中には、『怖い』とか、『痛い』とか『血が出る』とか負のイメージがあって。そういう先入観がある限り、試合を観に来てはくれません。でも、幸いにも僕がプロレスラーっぽくなかったので、“棚橋弘至”を売り込むことで、まずは会場に来てもらって。そこに色んな選手や試合があって。極端な話、名前とか技とかが分からなくても、プロレスが楽しい記憶になってくれればそれでいいんです」
もはや“ストロングスタイル”に神通力はない
新たなファン層を拡大する一方で、既存のプロレスファンからは逆風も浴びた。 所属する「新日本」といえば、団体旗揚げ以来、“ストロングスタイル”を標榜していたこともあり、「愛してま~す!」の絶叫や試合に勝利後のエアギターなど、棚橋のエンターテインメント色の強いパフォーマンスに対し、ブーイングなど拒絶反応を示すファンも少なくなかった。 それでも、棚橋のプロレスを復興したいという思いは決してブレることはなかった。 「“ストロングスタイル”自体を否定はしません。ただ、その言葉一つで商売ができる時代は終わった。もはや神通力はないんです。だから、違う何かを見つけなければならなかったんです」 そんな棚橋にとってはバラエティーや情報番組への出演も、プロレス普及活動の一環として考えているという。 「プロレス人気を上げようとしたら、やはり知名度が大事。“知っている人”が試合に出ないと、なかなか会場まで試合を観に来てもらえません。猪木さんのときは、それがあった。当時は金曜日の午後8時からテレビ番組の放送がありましたし、プロレスを知らない人でも、猪木さんという存在は知っていた。確かに、プロレス人気は一時期に比べると上がってきているとは思いますけど、まだまだ頑張らないと」 そのうえで、こう続ける。 「ただ、プロレスを知らない、観たことがないという人が多いというのは、逆にチャンスでもある。実際に試合を観てもらって、好きになってもらえる人が確率的にまだまだいるということですからね」