末っ子の作新学院副主将 父の教えと兄の悔しさを胸に センバツ
2人の兄の悔しさと父の教えを心に刻み、甲子園に立った。第95回記念選抜高校野球大会で29日の準々決勝に臨んだ作新学院(栃木)の磯圭太選手(3年)だ。父貞之さん(51)はかつて社会人野球の名門・日産自動車(休部)で投手として活躍。息子は3人とも作新学院野球部へ進んだ。 長男一輝さん(22)は2018年の夏の甲子園に主将の正捕手として出場。大阪桐蔭との初戦で接戦の末に敗れた。次男丈嗣(じょうじ)さん(20)は3年生だった20年の春と夏の甲子園大会が新型コロナウイルス禍で中止に。遊撃手のレギュラーをつかんでいただけに貞之さんは「かける言葉もなかった」。甲子園で勝てなかった長兄、目指す甲子園自体を失った次兄。貞之さんは末っ子の磯選手に「2人のためにも頑張れ」と言い続けた。 もう一つ、貞之さんが繰り返してきたのは「チームの一人一人に役割がある。それを全員が理解しないとチームは強くならない」ということ。これは貞之さんが所属していた横須賀市・日産自動車がアマチュア野球の最高峰・都市対抗で優勝を果たした1998年に、日本石油(現ENEOS)から補強された若林重喜さんの言葉だ。 準決勝と決勝で9打席連続安打の偉業を成し遂げた若林さんが優勝直後のあいさつで、日産自動車の各メンバーが本分を全うしていた点をたたえてくれたのが貞之さんの印象に強く残り、息子たちに教えるようになった。 元々は仲間より前に出るタイプではなかった磯選手だが、今は副主将を任されている。だから自分から仲間に声をかけるようになった。1年秋の栃木県大会でレギュラーを獲得して以来、貞之さんからは「試合に出られない仲間も常に気にかけなさい」と厳しく教えられてきた。 この日の山梨学院戦、磯選手は相手にリードされた第2打席以降は「兄の力を借りたい」と、一輝さんが5年前の甲子園で使った黒いバットを握って打席に立ったが快音を響かせられずチームは敗れた。アルプス席から見守った一輝さんは「幼い頃は自分たちの後ろを付いて回っていた弟がこんなに成長するとは。よく頑張った」とたたえた。 甲子園で戦った3試合いずれもショートで先発出場し、マウンドにも立つなど奮闘した磯選手について貞之さんは「甲子園に行けなかった私や次男、そしてヒットを打てなかった長男を超えてくれた。この経験を夏に生かしてほしい」と目を細めた。【井上知大】