F1は「忖度なし、容赦なし、配慮なし」 元ホンダ技術者・浅木泰昭が語る今季展望
【角田裕毅の表彰台は「十分にある」】 ーーホンダのPUを搭載するもうひとつのチーム、角田裕毅選手がいるビザ・キャッシュアップRBに関してはどのように見ていますが? 今シーズンはレッドブルの技術が搭載されたマシンが投入されています。 昨シーズンの段階から、レギュレーションで許される範囲でレッドブルに技術を使えば十分に速いだろうと感じていましたので、チームの首脳陣は真っ当な判断を下したのではないでしょうか。 ビザ・キャッシュアップRBは、マテシッツさんが亡くなってチーム内部に変化があったように感じます。マテシッツさんが存命だった時代は、それほどお金の心配をせずに若いドライバーを発掘や育成していればよかった。 でも今は、レッドブル・グループが企業として所有するのであれば、コストに見合っただけの収益を上げる必要が出てきたと思います。コンスラクターズ選手権で順位を上げれば分配金が増えて開発予算が増えますし、スポンサーもつきやすくなります。コストを少しでも削減して収益を上げるという「普通の会社(チーム)」に移行していかざるを得なくなったと思います。 ーービザ・キャッシュアップRBのマシンは競争力が高そうですし、信頼性の高いホンダのPUが搭載されています。角田選手には表彰台への期待が高まっています。 関係者の多くは角田選手とダニエル・リカルド選手とのパフォーマンスを比較して見ていますよね。リカルド選手よりも好成績を出せれば評価が上がると思います。F1通算8勝のリカルド選手という評価の比較対象があるのは諸刃の剣ですが、チャンスでもあります。ランド・ノリス選手が2022年シーズン、マクラーレンでリカルド選手に対して圧倒的な成績を残しましたが、それぐらいのパフォーマンスを見せてくれれば、ノリス選手ぐらいできるかもしれないという評価につながっていくと思います。 表彰台のチャンスは十分にあると思います。2020年、当時のアルファタウリ・ホンダのピエール・ガスリー選手はイタリアGPで優勝しています。今シーズンは24戦もあります。そのなかで運が向いてきたレースでチャンスをつかめば、表彰台に上がることは決して不可能ではないと思います。 後編<2026年のホンダのF1復帰を、過去ホンダを世界一に導いた技術者・浅木泰昭が展望する>を読む 【プロフィール】浅木泰昭 あさき・やすあき 1958年、広島県生まれ。1981年、本田技術研究所に入社。第2期ホンダF1でエンジン開発を担当。その後、初代オデッセイやアコードなどのエンジン開発に携わり、2008年から開発責任者として軽自動車のN-BOXを送り出す。2017年から第4期ホンダF1に復帰し、2021年までパワーユニット開発の陣頭指揮を執る。第4期活動の最終年となった2021年シーズン、ホンダは30年ぶりのタイトルを獲得。2023年春、ホンダを定年退職し、現在はDAZNのF1中継でコメンテーターを務める。2024年3月26日には初の著書『危機を乗り越える力』(集英社インターナショナル)を上梓。
川原田 剛●取材・文 text by Kawarada Tsuyoshi