新年の歌舞伎座にあの『大富豪同心』が新作歌舞伎として登場! 中村隼人、松本幸四郎、尾上菊之丞が意欲を明かす
共演者、スタッフも「はんなりと癒していきたい」
総踊りの実現には興味津々だが、菊之丞は「ドラマのエンディングでは、役と役者の中間の姿を見せる、その雰囲気がまた喜んでいただけるのかなと。お正月の夜の部の最後に上演される演目ですから、それもひとつのエッセンスとして、お客さまに楽しい気分でお帰りいただけるような踊りをお見せできたらいいなと思っています」。 また、卯之吉の魅力について隼人は、「ひとりの主人公が事件をすべて解決し、ひとりでの立廻り、またリーダーシップを持って物事を解決していく。これまではそれが時代に合っていたのだと思います。が、いまは多様性の時代。ひとりの力は実は小さなもので、周りの人に支えられながら、一致団結してひとつのことに取り組んでゆく。これが『大富豪同心』のテーマで、リーダーシップを持っていない卯之吉には、助けたくなるような魅力がある。無条件で助けたいと思わせる人物像が、いま、求められているような気がします」と述べるとともに、「あとは気絶。本当にパワーワードです」とも。 卯之吉は大富豪の孫で町人だが、彼を溺愛する祖父がその将来を心配し、同心株を買い与えたという。「本人はナチュラルに人に興味がないようでいて、人の気持ち、痛みがわかる。卯之吉は幼い頃に両親と別れ、再会することなく両親が亡くなってしまった。そういう影のある、寂しさのある人物。心にぽっかりとあいた穴をこれ以上作りたくないからこそ、人との関係をどこか浅くしているのですが、ヒロインの美鈴や幸四郎お兄さん演じる荒海の親分(荒海ノ三右衛門)たちの優しさに触れて、どんどん人間として成長していくところが、この卯之吉の魅力なのではないかなと思います」(隼人)。 尾上右近演じる銀八については、「卯之吉の右腕であり理解者。右近くんは幼稚園くらいの頃から一緒でしたし、お互いに根本の部分はわかっていると思うので、助けてもらいながら、一緒にふたりの関係性をつくっていきたい」と隼人。幸四郎演じる荒海ノ三右衛門は卯之吉に心酔、「暑苦しいほどの情熱を表現できればと思います(笑)」(幸四郎)。 準備期間に年末年始を挟む1月の新作上演だが、「コロナ禍以降、オンラインのミーティングもできるようになって、そうしたものも駆使して進めてきた。どうやってお正月の2日に初日が開くのか、私も伺いたいくらいですが(笑)、そんな中での大きなチャレンジだなと思います」(菊之丞)、「いま(2024年12月)も新橋演舞場に出演していますが、それ以外のことを考えることで、また新たに明日の舞台に向き合える。楽しんでいます」(幸四郎)。隼人も、「僕の役者人生にすごく影響を与えてくれた作品ですので、妥協することなく、全身全霊でいいものをつくりたい。そういう思いがあれば、時間は関係ありません。忙しい皆さんに集まっていただいたので、自分自身は疲れた顔を見せずに、共演者、スッタフの皆さんを、はんなりと癒していきたいと思います」と目を輝かせた。 歌舞伎でのシリーズ化にも期待。開幕が待ち遠しい。 取材・文:加藤智子 <公演情報> 「壽 初春大歌舞伎」 【昼の部】11:00~ 一、『寿曽我対面』 二、『陰陽師』 大百足退治 鉄輪 三、恋飛脚大和往来 玩辞楼十二曲の内『封印切』 【夜の部】16:30~ 一、一谷嫩軍記『熊谷陣屋』 二、『二人椀久』 三、新作歌舞伎『大富豪同心 影武者 八巻卯之吉篇』 2025年1月2日(木・祝)~1月26日(日) ※8日(水)、16日(木)休演 ※下記日程は学校団体来観 昼の部:14日(火)、23日(木)、24日(金) 夜の部:22日(水) 会場:東京・歌舞伎座