”藤浪ショック”はサッカー界へも教訓…危機管理の徹底と「隠さない勇気」
実際、サッカー界では日本サッカー協会の田嶋幸三会長が、日本において個人名が特定された初めての新型コロナウイルス感染者となったことは記憶に新しい。しかし、選手や首脳陣、そしてクラブのスタッフらからは疑いの段階を含めて、感染に関する報告は幸いにも上がってきていない。 各クラブの現場レベルでは、どのような形で危機管理がなされているのか。前出の毎日の健康チェックだけではない。消毒用アルコールによる手指衛生の励行。ロッカーおよびシャワールームにおける時間差利用や、最低でも1.5メートル以上離れた空間遮断。家族や同居者に対する教育や啓発。そして、日々の行動や同行者など濃厚接触を、例えるなら日記のように記録することが求められている。 その上で次の4つの状況になったときに、クラブからリーグへ漏れなく、なおかつ正確に報告することが義務づけられている。 【1】37.5度以上の発熱が2日続いた場合 【2】PCR検査を受けることが決まった場合 【3】PCR検査で陽性反応が出た場合 【4】感染者の濃厚接触者と認定されたときや、あるいは疑いがあると見なされた場合 感染が判明した場合の氏名公表については、クラブごとの判断に委ねられる。藤浪らのように公表するときには当該選手の同意を得た上で、文書によるリリースやクラブの公式ホームページ上への掲載、あるいはクラブ幹部による記者会見などの形が取られることが広報担当との間で確認されている。 ただ、新型コロナウイルス感染には未知の部分も多く、ゆえに上記の4つに続く【5】として「その他」が記されている。藤浪と同じケースは世界中で報告されはじめているだけに、専門家チームの助言も得たうえで、嗅覚や味覚の異常も初期症状として【5】に加える必要も出てくるだろう。
メディアブリーフィングでは、感染者をクラブが隠蔽した場合の罰則規定の有無も問われた。阪神の藤浪は、自らが実名公表を今後の”兆候サイン”の啓蒙につながればと球団に申し出ている。 藤村特命担当部長は「現状ではそうした類のルールを新設していない」と明言。その上で、その理由を「隠さない勇気が一番大事になる、という価値観をクラブおよび選手で共有できている」とこう続けた。 「最初にクラブおよび選手へ向けたプロトコールを作ったときに『チーム内で一人でも感染してしまうとリーグ運営に差し支えるので、個人が健康には気をつけてください』というメッセージにとどめました。しかし、いまでは『個人の健康を守ることが集団の健康につながり、社会全体を守ることにつながる』というメッセージに変えています。これを成り立たせるためには、体調が悪いときには隠さずに申し出る、無理をして練習に出ないでしっかりとした診断を受けることが求められるので」 永遠に貫いていく理念として、Jリーグは「地域密着」を掲げている。それぞれのホームタウンで暮らす人々の心身の健全な発達と社会の発展に貢献する、という原点にあらためて回帰するためにも、新型コロナウイルス禍という緊急事態を通じて社会的な責任を果たしていく決意を新たにした。 しかし、どれだけ細心の注意を払っても、未知のウイルスに感染するリスクはゼロにはならない。感染しても自覚症状がなければ、本人が気づかないまま濃厚接触者が増える恐れもある。感染者だけでなく濃厚接触者も隔離されるので、公式戦が再開されても不測の事態が起きかねない。