花王ヘアケアの逆襲 中高価格帯で「圧倒的ナンバーワン」への周到戦略
「メルト」人気のバックボーンに
「研究開発力」と「ユーチューバー」
大企業ならではの資本力、研究力で生み出す独自成分やスケールメリットは、競争優位性を生み出す。それは「メルト」の好調理由の一つとも言える。例えば「ジアンサー」に配合されているラノリン脂肪酸は比較的原価が高く、市販シャンプーやコンディショナーではコストの面から配合するのが難しい成分だが、花王はこれを「メルト」にも取り入れている。
そういった、消費者には伝わりづらい処方や成分の伝道師となるのは美容系ユーチューバーだ。ユーチューバーによる処方の良し悪しの評価は、消費者の購買動向を大きく左右する。事実、「メルト」も「成分に詳しい美容系ユーチューバーによる発信が売り上げが爆発的に伸びるきっかけになった」という。「ジアンサー」では開発段階からユーチューバーの協力を取り付けた。
成熟するハイプレミアム市場
純粋な商品力が成否を分ける
同社はここ数年で市場シェアが縮小傾向にあったヘアケア領域のテコ入れに乗り出している。「メリット(MELIT)」「エッセンシャル(ESSENCIAL)」などを主軸とするマス向け(1000円以下の低価格帯)では依然トップシェアを維持しているが、ハイプレミアムゾーンでも「圧倒的なナンバーワンを狙っていきたい」と見据える。「メルト」は10月から取り扱い店舗を倍以上に拡大する。来年には「ジアンサー」に続く第3弾ブランドを投入する。
男性的とさえ感じられる「ジアンサー」のブランディングは、販路を念頭に置いた周到な戦略だ。「メルト」が主販路とする「マツモトキヨシ」「ココカラファイン」は都市部に強く、顧客は比較的若年層が多く感度やムードを重視する。対して、「ジアンサー」が展開するウエルシアグループは地方に店舗が多く、顧客は「質実剛健」で「実質的な効果効能を求める」傾向があると分析する。第3弾ブランドはまた別の大手ドラッグストア販路を攻めるようだ。販路のニーズに合わせ、商品の機能やブランディングをカスタマイズする入念さからは、花王の本気度がうかがえる。
これまでのハイプレミアム市場は「ボタニスト(BOTANIST)」「ヨル(YOLU)」などを擁するI-neを筆頭に、若く勢いのあるメーカーが中心となり、ユニークな世界観やコンセプトのブランドで引っ張ってきた。ただ市場が成熟し、競合商品の評価、消費者ニーズがある程度定まってきた中では、「純粋な商品力があるブランドだけが生き残れる」と野原氏。ハイプレミアムゾーンでは機を失したかに見えた花王だが、むしろ「機は熟した」とばかりに新ブランドを打ち出し、攻めに転じる。来年には第3弾ブランドのローンチを控えるが、「ジアンサー」ですでに“答え”を提示した花王の次なる一手に注目したい。