「分かっていたのに…」サッカー日本代表は無策だった。研究され封じられた武器【アジアカップ2023現地取材コラム】
サッカー日本代表は現地時間19日、AFCアジアカップカタール2023グループステージ第2節でイラク代表と対戦し、1-2で敗れた。久保建英や冨安健洋など、世界最高峰の舞台で活躍する選手たちを擁するが、個の能力頼りではアジアを制することはできない。(取材・文:元川悦子【カタール】) 【動画】またGKのミス? サッカー日本代表の失点シーン
●「分かっていたのに…」反省ばかりが出た試合 「今日のスタジアムの雰囲気は我々にとっては完全にアウェイで、イラクにとってホームのような雰囲気になるという中で、スタートで勢いに乗せてはいけないと分かっていたのに、抑え切れなかった。試合の入りから選手やチームがよりアグレッシブにプレーできるような環境作りをしなければいけないという反省ばかりが出た試合でした」 森保一監督が伏し目がちに語った通り、19日のイラク代表戦を1-2で落とした日本代表の戦いぶりは不完全燃焼感が色濃く残るものとなった。 この日のイラク代表は最前線に190センチ近い長身FWアイマン・フセインを配置。大型FW目がけてロングボールを蹴ってくるというシンプルな戦術を選択した。その術中にハマり、ボールが落ち着かない状況になる中、日本代表は受け身に回っていく。 そして開始5分、南野拓実のミスパスを相手17番のアリ・ジャシムに拾われ、ロングシュート。これを鈴木彩艶がキャッチではなく、パンチングを選択。「少しブレるようなボールだったので、確実に弾こうと思った」という彼の判断は無難だったが、問題はその後のスローインからの対応だ。 右からのサイドチェンジにマークがついておらず、フセインと伊東純也が競ったボールが左サイドにこぼれ、そこからアリ・ジャシムへ。彼が上げたクロスを鈴木が右手でセーブしたものの、不運にも再びボールがフセインの前に飛んだ。次の瞬間、ヘディングシュートがゴールネットを揺らす。日本代表は14日のベトナム代表戦に続いてビハインドを背負う展開を強いられることになった。 ●苛立ちの募る45分。停滞感の最大の要因は… そこからの日本代表はサイドを起点に攻めようと試みたが、右の槍である伊東がボールを持つと、相手左SBのみならず、左CB、ボランチまでもが警戒。なかなか深い位置まで侵入できず、フィニッシュに持ち込めなかった。 逆にイラク代表は伊東・菅原由勢が陣取る日本代表の右サイドを狙い撃ち。伊東を下げさせ、低い位置にとどまらせるという意図もあっただろう。その結果、ストロングであるはずの右サイドが封じられる形になった。第2次森保ジャパン以降は左の南野拓実とトップ下の久保建英の並びでほとんどプレーしておらず、連係面にやや戸惑いがあった模様だ。 相手の対策に苦労した日本代表の前半シュート数はわずか3本。苛立ちの募る展開が45分間続いた。しかも前半終了間際に再び菅原のサイドを破られ、フセインに2点目を奪われるという最悪の展開に。この時点で勝負は決まっていたのかもしれない。 「僕らの今までの強みがサイドでの1対1だったので。それを抑えられるとやっぱりシュートまでいけないというのが全てだと思っています」とベンチから見ていた堂安律がズバリ指摘した通り、右の槍を封じられた時の「次の手」がなかったのが、停滞感の最大の要因だろう。 「サイドの打開も、個で打開するのか、チームとしてコンビネーションで崩していくのかというポイントがありますが、個の部分は研究されていた。普段なら違う選手が出てくるところをベトナムもイラクも守備が強い選手を起用し、2枚で対応してくるところがあったし、コースの切り方もかなり研究してきていた」と森保監督も厳しい表情でコメントした。 ●ズバリ堂安律が指摘する日本代表の致命的な問題 振り返ってみると、FIFAワールドカップカタール2022(W杯)アジア最終予選でも日本代表は相手に人数をかけて守られ、攻めあぐねた。初戦のオマーン代表戦と第3戦のサウジアラビア代表戦をともに落とし、崖っぷちに立たされたとき、チームを救ったのが伊東だった。彼の爆発的なスピードと決定力がなかったら、4-3-3に布陣を変更してからの戦いも勝てなかったし、本大会切符もつかめなかったかもしれない。 その事実をアジア各国も熟知している。伊東がリーグアンで圧倒的な存在感を示していることも承知のうえで、徹底分析しているはずだ。その槍を消された時、今の日本代表は得点を奪う術が思うように見出せない。現時点では左の槍・三笘薫がケガで使えない状況なのだから、より連係やコンビネーションで点を取る工夫を凝らしていかなければならないはずだ。 「チームとしてもう1つのオプションを持てなかった。拓実君が左サイドに入っていたんだから、仕掛けるんじゃなくて中に絡みながらとか、そういう臨機応変に対応するところがチームとしてまだまだだったのかなと思います」と堂安は鋭い発言をしていたが、前半はまさにそこが足りなかった。 ●アジアを制覇するために克服しなければいけない課題 後半になって伊東が左に移動し、右に久保、トップ下に南野という配置になって、ようやく左右両方から仕掛けられる状況にはなった。相手もペースダウンし、途中から4バックを5バックへと変更。より人数をかけて守るようになった。そこで堂安と上田綺世が登場。18分には守田英正とのいいコンビネーションから堂安が決定機を迎える。29分には左の伊東と絡んで堂安がシュートを打ちに行くなど、得点意欲を前面に押し出し、攻撃を活性化させた。 だが、結局のところ、一矢報いるゴールを奪ったのは、リスタートからの遠藤航のヘディングだけ。流れの中から点を取ることはできず、日本代表は手痛い1敗を喫した。タイムアップの笛が鳴り響いた瞬間、イラク代表は日本代表がカタールW杯でドイツやスペインを下した時のようにお祭り騒ぎ。優勝候補筆頭の強敵から白星を挙げたのだから、盛り上がりのも頷ける。 日本代表にしてみれば、入念な対策を講じてくるタフでアグレッシブな相手からどうゴールを挙げ、勝ち切るかという課題を改めて突きつけられる形になった。こういった戦いをしてくるのはイラク代表だけではない。24日のグループ最終戦・インドネシア代表戦で勝ってラウンド16に進んだとしても、難しい状況が続くはず。その段階になれば三笘が復帰してくると見られるが、サイドでの個の打開力だけを頼りにしていたら、同じ轍を踏みかねない。短期決戦の期間内に劇的な解決策を見つけるのは簡単なことではないが、それをやらなければ5度目のアジア制覇は不可能だろう。 伊東、三笘の縦への推進力頼みの攻めから脱却し、複数人が絡みながら多彩な崩しを見せ、得点する形を作れるか否か。それが日本代表の今後を左右すると重要命題になるはず。追い込まれた今こそ、底力を発揮してほしいものである。 (取材・文:元川悦子【カタール】)
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