ドイツ連立政権が崩壊、ショルツ首相は年内の信任投票を拒否し政治空白の長期化も
野党と産業界は総選挙の早期実施を要求
ショルツ首相は、来年1月15日に首相信任投票を連邦議会で実施すると宣言した。この投票で過半数の議員の信任が得られない場合、首相は連邦大統領に対し、議会の解散を求める。連邦大統領は21日以内に連邦議会を解散させる。現時点では、2025年3月末までに連邦議会選挙が行われると予想されている。つまり2025年9月に予定されていた連邦議会選挙が、約6カ月前倒しされる。 だがドイツでは「3月に総選挙を行うのでは遅すぎる」という声が強まっている。フォルクスワーゲンの大規模なリストラ計画が示すように、現在ドイツの製造業界は、未曽有の危機に直面しており、政府の支援策を要求している。国際通貨基金によると2023年のドイツの実質GDP(国内総生産)成長率はマイナス0.3%で、G7諸国の中で最低だった。今年の実質GDP成長率もマイナスまたは0%になる可能性がある。来年前半には、失業者数が300万人を超えると予想されている。 さらに米国大統領選挙でドナルド・トランプ氏が勝ったことから、米国とEU(欧州連合)の間で通商や防衛をめぐって対立が深まる可能性がある。ドイツ政府は欧州委員会や他の欧州諸国と、来年トランプ政権がEU域内からの輸入品に最高20%の関税を導入したり、ウクライナへの軍事支援を大幅に減らしたりした場合の対応策を協議しなくてはならない。 現在の状態では、ドイツ政府は2025年予算も来年半ばまで連邦議会で可決させることができず、中央省庁の支出も最低限必要な支出に限られる。 このため最大野党キリスト教民主同盟(CDU)のフリードリヒ・メルツ党首は、首相信任投票を11月中に実施し、できるだけ早く連邦議会選挙を実施するよう求めている。この場合、来年1月半ばにも総選挙が行われる可能性が出てくる。ショルツ首相も、総選挙の時期を遅らせることに意味がないと悟れば、メルツ党首の要望を受け入れるかもしれない。 メルツ氏は11月7日のドイツ公共放送連盟(ARD)とのインタビューで、「国内外で重要な案件が山積している中、ドイツ政府が約5カ月も政局運営能力を失うのは、許しがたい。首相が来週信任投票を行わない限り、重要法案の連邦議会での可決について一切協力しない」と答えた。10月18日にアレンスバッハ人口動態研究所が公表した政党支持率調査によると、CDUと姉妹政党キリスト教社会同盟(CSU)の支持率は36%で首位にある。前倒し選挙後は、メルツ党首を首相とする連立政権が生まれる公算が強い。 またドイツ産業連盟(BDI)のジークフリート・ルスブルム会長も11月7日、「製造業界の競争力の回復など難題が山積みになっている現在、ドイツは一刻も早く議会で過半数を確保し、政局運営能力を持つ政府を必要としている」という声明を発表し、総選挙を早急に実施するよう求めた。 私は1990年から34年間ドイツで働いているが、政局がこれほど混乱したのを見るのは初めてだ。欧州最大の国ドイツが、約5カ月も「開店休業状態」に陥るのは危険である。ショルツ首相は、体面やプライドよりも国益を優先し、一刻も早く信任投票を行って、総選挙の早期実施を図るべきだ。
ジャーナリスト 熊谷徹