強豪PSV移籍の堂安律が森保Jで「“ごっつぁんゴール”を長所にしたい」と誓う理由
「いろいろとコミュニケーションを取らせてもらいましたが、代表を断る理由は僕にはないと思っているので。リスペクトしかないこの場所に選んでいただいたなかで『いつでも行きます』と伝えました。不安は特にないですね。トップ・オブ・トップに行けばそんなものは付きものだと思っていますし、それを不安と言っていたらダメだと思うので」 堂安が言及した「そんなもの」とは、代表への招集に伴い、加わったばかりの新天地を留守にする状況を指す。船出したばかりの森保ジャパンに抜擢されて1年。国際親善試合だけでなく1月には公式戦のアジアカップにも臨み、カタール代表に完敗を喫しての準優勝という結果に悔しさも募らせた。 濃密な経験を積み重ねてきたなかで、しかし、今回は状況が大きく異なる。パラグアイ戦に続いて10日には、3年後のカタールワールドカップへの第一歩となる、ミャンマー代表とのアジア2次予選が待っている。しかも、ただでさえ難しい初戦を敵地ヤンゴンで戦う。 森保ジャパンでは右サイドハーフを主戦場としてきた。ポジション的に縦の関係を組んできた、右サイドバックの酒井宏樹(オリンピック・マルセイユ)をはじめとする経験者たちから、アジア予選がもつ独特の難しさを堂安は幾度となく聞いてきた。 「また違った緊張感になるのは、試合をする前からわかっています。ただ、構えすぎないように。いつもの勢いというか、自分らしさを見失わないようにプレーしたい」 ライバルの台頭も堂安を突き動かしている。6月のキリンチャレンジカップ2019で共演したMF久保建英(18)が、直後にFC東京から世界一のビッグクラブ、レアル・マドリードへ電撃移籍。プレシーズンマッチではトップチームに帯同し、周囲を驚かせるパフォーマンスを見せた。
当初はBチームのレアル・マドリード・カスティージャで、スペインへ適応させる青写真が描かれていた。しかし、一刻も早くラ・リーガ1部の戦いを経験させた方がいいと変わり始め、8月22日にはRCDマジョルカへの期限付き移籍が決定。現地時間1日のバレンシアCF戦の後半34分から途中出場し、ヨーロッパの4大リーグにおける日本人選手の最年少出場記録を塗り替えた。 久保も6月シリーズに続いて招集された。代表メンバーを発表した8月30日の記者会見で、森保監督は「彼自身のプレーのクオリティーが、代表選手としての戦力にふさわしいと考えて招集した」と言及。スタッフを介して、久保のメンタル状態も確認したことも明かしている。 ひとつのポジションに原則2人ずつが招集された今回の中盤で、久保は南野拓実(ザルツブルク)とトップ下枠に入る。しかし、マジョルカでのデビュー戦では中盤の右サイドに入り、スペインへ渡る前にはFC東京の右サイドハーフとして、フル代表へ大抜擢されるのにふさわしい存在感を放っていた。 今回の招集メンバーの右サイドハーフ枠には堂安と、縦へ飛び出す韋駄天ぶりを絶対的なストロングポイントとする伊東純也(KRCヘンク)も招集されている。トップ下がメインだったフローニンゲンの2年目から一転して、新天地PSVで「右サイドハーフを極めたい」と所信を表明している堂安は、激化するのが必至の代表内のポジション争いをむしろ歓迎する。 「PSVでもそうですけど、ライバルというのはこういう状態を指すと思うので。本当に自分がやるだけですし、これからは周囲から点を取らせてもらう、という動きも必要。そういう“ごっつぁんゴール”も、自分のなかで長所にしていきたいと思っている」 堂安と同じ左利きで、サイズもほぼ同じ久保は6月9日のエルサルバドル代表戦で、後半22分から途中出場してフル代表デビュー。南野に代わってトップ下に入り、右サイドの堂安と共演したなかで幾度となく久保も右サイドに流れ、2人が重なってしまう場面もあった。 「感覚の問題だと思います。彼や(南野)拓実君が右サイドに流れてきたときには、僕が中へ行けばいいだけなので。トップ下もできることは僕自身がわかっているし、そうすることで“ごっつぁんゴール”も生まれると思う。そこは新しいトライとして、自分のなかでやっていきたい」 こう語った堂安は、経験者たちからシンガポール代表とホームの埼玉スタジアムでまさかのスコアレスドローに終わった、前回ロシア大会出場をかけた2015年6月のアジア2次予選初戦の結果や内容も聞かされているのだろう。だからこそ、不退転の覚悟をあらためて口にした。 「点を取れなかったら決定力不足と言われる。綺麗な形じゃなくてもゴールラインを割れば1点は1点なので、そういう決定力を身につけないといけない。もちろん試合をしていないのは自分自身も感じているけど、正直、いいプレーをすればまったく関係ないことだし、悪かったら『試合勘がない』と言われるだけなので」 3日からは久保も合流する。ライバルとの競争だけでなく共存するシーンも思い描きながら、堂安は泥臭く、雄々しく、そして日の丸への誇りを背にカタールへの第一歩を踏み出そうとしている。 (文責・藤江直人/スポーツライター)