藤井 風、Reolらのサポートでも活躍 ドラマー 上原俊亮、出会いを通して拓けた自由なプレイスタイル
藤井 風のツアー&レコーディングから得た刺激
――Spice rhythmは途中から森光さんが歌うようになり、名前をdawgssに変えて、よりポップス的なアプローチに向かった印象です。上原さんの少し上の世代には石若駿さん、King Gnuの勢喜遊さん、WONKの荒田洸さんといったドラマーがいて、上原さんとも通じるようなルーツを持ちつつ、ポップスのフィールドも含めて自由に表現をしていて、dawgssでの活動もその延長線上にあるイメージがありました。上原さんはdawgssとしてポップス的なアプローチをする上でどんな考えがありましたか? 上原:東京に出てきて、やっぱり第一線でやってるドラマーの人たちがどういう音楽をやってるのかは気になっていて。今、名前を挙げられたような人たちは僕がアメリカで勉強したことに近いものがベースとしてありつつ、その上に成り立ってるのが歌ものだったりするので、それがめちゃくちゃかっこよくて。みんなもっとテクニカルなアプローチもできるんだけど、それをひけらかさずにちゃんと歌を立てていて、でも美味しい部分では自分の色を出しているから、そういう音楽がかっこいいなっていうのは思ってました。あとは単純にちょっとずつ年齢を重ねていくにつれて、徐々に歌に耳を傾けるようになっていった気がします。「歌の持つ力ってこんなにすごいんだ」っていうのを年々感じるというか、もちろん楽器でそれを表現することもできるんですけど、感情とか思いは言葉で表現するのが一番ダイレクトではありますよね。なので、いちドラマーとしても歌ものへの熱は沸々と湧いてきました。 ――その意味ではやはり藤井 風さんのアリーナツアー『Fujii Kaze “LOVE ALL ARENA TOUR”』(2022~2023年)に帯同した経験も大きかったのかなと。 上原:そうですね。僕にとってはアリーナツアーに帯同すること自体が初めての経験だったんですけど、風くんを観に来てる人たちの姿勢というか、初日から会場の一体感がものすごくて。改めて音楽の持つ力、歌の持つ力みたいなものを肌で感じて、もっと歌に寄り添える人になりたいって強く思うきっかけになりました。 ――ツアーの前には『LOVE ALL SERVE ALL』に収録されている「やば。」と「damn」のレコーディングに参加されていましたが、それはどういった経緯だったのでしょうか? 上原:ギタリストの小川翔(LAGHEADS)さんが、Yaffleさんに僕のことを話してくれたのがきっかけで、Yaffleさんがアルバムのレコーディングで「2曲お願いできますか?」と声をかけてくれて。僕はもともと風くんの音楽のリスナーだったので、「ぜひ!」と思ってやらせてもらって、アルバムが出たあとも『藤井 風テレビ(藤井 風テレビwithシソンヌ・ヒコロヒー)』(テレビ朝日系)で一緒に演奏させてもらったりして、その流れでツアーも、みたいな感じでした。 ――いきなりのアリーナツアーは緊張感がすごかったかと思いますが、ただ音楽的な理解という意味では、藤井 風さんやYaffleさんとは最初から共通言語があったのかなと。 上原:おこがましいですけど、僕は勝手に近いところがあると思っていて、だから話も早いというか、スムーズにいろんなことが進められたかなと思います。ただ、みんな本当にいろんな音楽を聴いてるんだなっていうのは思いましたね。Yaffleさんはもちろん、風くんもすごくいろんな音楽を聴いてる人で、やっぱりいろいろ聴くことが大事だなと思いました。Yaffleさんとはお話をしてるだけでもすごく勉強になりますし。 ――Yaffleさんとのやりとりの中で、特にどんなことが印象に残っていますか? 上原:去年の11月にiriさんのツアー(『iri Plugless Tour』)があって、そのときのメンバーが僕とYaffleさんとiriさんの3人だけだったんです。iriさんだけで弾き語るパート、Yaffleさんの鍵盤とiriさんの2人だけのパートがあって、僕はライブの後半から参加したんですけど、楽屋でYaffleさんとずっとお喋りをしてました(笑)。沖縄から出てきてまだ2~3年くらいのドラマーに自分の抱えている案件のレコーディングを振るって、僕がYaffleさんの立場だったらめちゃくちゃ不安だったと思うんです。でも僕を信じて話を振ってくれたわけだから、やっぱりちゃんと応えたい。それは強く思いましたね。 ――昨年末にdawgssからの脱退が発表されました。現在の心境を話していただけますか? 上原:もちろんいろんな話をした上で、脱退発表の文面で僕は「方向性の違い」っていうすごくありきたりなことを書いたんですけど、でも本当にそういう感じで。やっぱりユニットなので、2人が同じ方を向いてないと続けていくのは難しいと思うんです。すごくたくさん悩んだんですけど、お互いの方向性やスタンスの違いを知りながら2人で続けていくのはきっとつらいんじゃないかという考えに行き着きました。dawgssになってからはまだ1年ちょっとぐらいですけど、Spice rhythmだったり、さらにその前から数えると5年くらいの付き合いで。dawgssになってお互いの価値観や方向性のずれが出てきちゃったけど、ポジティブに考えたら、dawgssとして活動してみたからこそわかったこともいっぱいありました。なので、その1年はもちろんすごく貴重な時間だったし、お互いのことをより知れた1年でもあって、今となってはあるべき時間だったんだなと思ってます。 ――4月に出たdawgssのEP『Tenderness』には上原さんも参加されていましたね。 上原:あのEPは脱退が決まる前に録り切っちゃっていて、脱退の後にEPが出るっていう流れだったので、僕のドラムを外すとなっても、それはもうしょうがないと思ってたんですけど、使ってくれてたのはありがたいです。お互い進む道は変わりましたが、まずは自分のできることを一つひとつ丁寧に頑張っていこうと思っています。 Reolでのサポートは新鮮な経験に ――現在もたくさんのアーティストの録音やライブに関わられていますが、近年、上原さんにとって特に新鮮だった活動について教えてください。 上原:ここ数年だとReolさんの音楽性が僕の中ですごく新しかったです。もともと歌い手さんで、途中から顔出しをされて、ライブをすることになり、そこでバンドを入れた感じですけど、楽曲は打ち込みサウンドとかEDMで、それをライブでやるとなったときにどういうアプローチをするかはかなり試行錯誤がありました。ライブではReolさん以外の編成が、ドラム、ベース、ダンサーさんで、あとは同期なので、楽器のサポートは実質2人しかいないんですよね。ベースは二家本亮介さんとご一緒することが多くて、ベースとドラムだけで同期に負けない演奏をしないといけないけど、音源はバキバキなので、どうするべきかはリハーサルでいろいろ話し合いました。 ――再現性も意識しつつ、どうライブで鳴らすのか。 上原:楽器的にはSPD-SX(サンプリングパッド)を多用していて、打ち込み系の原曲をなるべく忠実に演奏したいと思うんですけど、もともと演奏することを念頭に置いて作られてるわけじゃないので、すごく難しくて。最初にリハに入ったときはめちゃくちゃ大変で、音源を再現するにも限界はあるし、かといってスカスカでもかっこ悪いし、いろいろ考えながらやったんですけど、それが自分にとってはいい試練になったというか。でも、やるべきことや準備すべきことがだんだんわかってきて、それに慣れることができれば、他の現場でこれより大変なことはないんじゃないかなって(笑)。それからはずっと声をかけていただいて、ツアーもずっと帯同させてもらえてるので、頑張ってよかったですね。 ――同期を用いた演奏というと、最初に話していたクリック練が今に活かされている感じがしますよね。 上原:めちゃくちゃ大きいですね。上モノはほぼ同期しか鳴ってないので、あとは下をドラムとベースで支えるんですけど、クリックとずれちゃうともろにずれちゃうんで、「親父、ありがとう」と思いながら叩いてます(笑)。 ――最後に、ドラマーとしての今後の展望について聞かせてください。 上原:僕はいろんなジャンルが好きなので、今まで通りあまりジャンルには縛られずに活動を続けたいです。ただやっぱり、音楽はすごいスピードでいろんな形に変わっていってるなと最近本当に思うので、今まで関わってきた人たちのくれた音楽に対する考え方を大事にしていきながら、ちゃんと時代に合わせて自分をアップデートしていきつつ、これからもいちドラマーとして頑張っていきたいなと思います。
金子厚武