「黙っていたら分からないよ」相続放棄で借金を回避した兄、父親の高級時計を密かに処分…その行為に法的問題は?【行政書士が解説】
多額の借金を抱えたまま親が亡くなった場合、遺された家族は相続放棄をして借金を含めた資産の相続を逃れることができます。しかし相続放棄をしたうえで、被相続人の財産を処分して自分のものにしようと考える人もいるようです。 【漫画】老朽化した実家「取り壊して」とお願いしたところ衝撃トラブル…集落総出で物色、土足で踏み荒らされた状態に 50代男性のAさんは会社経営をする父親のもとで、後継者として育てられてきました。会社の経営は決して順調ではなく、父親も借金を抱えながらなんとか事業を継続しています。 そんなある日父親が突然倒れて、そのまま亡くなってしまうのです。Aさんの2つ年上の兄Bさんは、父親の借金の存在を知っていたため相続放棄の手続きをおこないます。一方でAさんはその借金も引き受け、父親の会社の後を継ぎ歯を食いしばって働き続けます。 あるときAさんは父親の部屋を片付けていると、父親の形見である高級時計がなくなっていることに気がつきます。実はその高級時計はBさんが持ち出し、売却してしまっていたのです。事実を知ったAさんは、Bさんに抗議をしたのですが「どうせ黙っていたら分からないよ」と反省していません。 ただ相続放棄をしているBさんは、原則として相続財産を処分できないはずです。相続放棄しているBさんが、父親の財産である高級時計を売却したらどうなるのでしょうか。北摂パートナーズ行政書士事務所の松尾武将さんに聞きました。 ーそもそも相続放棄とはどういうものなのでしょうか 相続放棄とは亡くなった人の相続に関し、一切の権利及び義務を放棄することです。相続の開始があったことを知ったときから3カ月以内に、家庭裁判所に相続放棄の申述の申立てをおこなうことが必要です。相続放棄の申述が受理されれば、最初から相続人ではなかったこととなり、遺産分割協議に関与することもなくなります。 ー相続放棄後に相続財産に手を付けるとどうなるのでしょうか 今回のケースのように相続放棄をおこなった元相続人が相続財産を処分した場合、受理されている相続放棄が無効となることがあります。民法第921条3号によると、相続人が相続の放棄をした後であっても相続財産の全部もしくは一部を隠匿した場合や、私に消費した場合、単純承認をしたものとみなされると記載されています。単純承認とは、被相続人の一身専属権を除く一切の権利及び義務を相続することを意味します。 ここ記載されている「私に」とは、「相続債権者が不利になることを承知のうえで」という意味で、これを承知のうえで消費した場合には、たとえ相続放棄をした後であっても単純承認したとみなされます。つまりBさんの行為が私に消費したものと評価されれば、Bさんの相続放棄は否定され、法定単純承認が成立することとなります。 ー相続放棄は取り消すこともできるのでしょうか 一度受理された相続放棄は、例え熟慮期間が残っていたとしても撤回できません。ただし相続放棄が無効とされることはあり、また一定の場合取り消すことが可能です。 例えば未成年者や成年被後見人、被保佐人などの制限行為能力者が、保護者や保佐人の同意を得ずに相続放棄をおこなった場合、その相続放棄は無効とされると考えられます。また相続放棄を取り消す場合には、その旨をあらためて家庭裁判所に申述することが必要となります。 相続放棄にまつわる論点はさまざまありますので、もし相続放棄をご検討の場合には専門家に相談することをおすすめします。 ◆松尾武将(まつお・たけまさ)/行政書士 前職の信託銀行員時代に1,000件以上の遺言・相続手続きを担当し、3,000件以上の相談に携わる。2022年に北摂パートナーズ事務所を開所し、相続手続き、遺言支援、ペットの相続問題に携わるとともに、同じ道を目指す行政書士の指導にも尽力している。 (まいどなニュース特約・八幡 康二)
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