人件費削減、若手離れ…緊急的に声明を出した国立大の真意は?
全国34の国立大の理学部長は10月末、基礎科学研究への支援や人件費などに使われる国からの交付金(運営費交付金)をこれ以上削減しないよう求める声明を連名で発表した。教員の削減などが進む大学の状況を鑑みて緊急的に行ったものだという。声明文の原案を作った東京大学理学系研究科長を務める福田裕穂教授に、国立大学の現状や、なぜ声明を緊急発表しなければならなかったのかなどを尋ねた。 声明文はこちら
「大隅さんを応援しなければと思った」
──今回の声明は毎年行っているようなものか。なぜ今のタイミングだったのか 毎年やっているものではない。初めてではないと思うが、理学部長会議で声明を出すのはこれまで記憶にない。止むに止まれぬ状況だと判断し、出したものだ。 この声明を出した一番の理由は大隅さん(大隅良典・東京工業大学栄誉教授)がノーベル医学・生理学賞の受賞が決まったタイミングで、基礎科学の大切さを訴えていたことだ。大隅さんが一人で基礎科学が大事と言っているだけじゃ個人の意見になってしまう。僕らも同じように思っていることを伝えなければならないと思った。いわば「大隅さんサポートバックコーラス」だと思ってもらえればよい。 一番言いたかったのは基礎科学が傷んでいるということ。運営費交付金も減り、人材も減っている。ノーベル賞でみな浮かれているかもしれないけど、あれは過去に基礎科学がすごく大事にされていて、みんながんばれた時代の遺産であって、現状は今の状況を維持するだけでも危ない状態だ。 基礎科学がダメになると日本の強いところがなくなってしまうような気がする。将来の日本独自の産業を起こすためには日本独自の基礎科学が必要なのに、このままでは日本の国力を落とすことにつながる。
国立大学の現状とは「東大でもお金余っていない」
──国立大学で何が起きているか 2004年の国立大学の法人化で、大学は企業並みのことをやらなければならなくなった。例えば化学薬品の管理もそれまでは国がやってくれていたが、法人化以降は薬品を管理する責任者を大学が置かなければならなくなったし、訴訟が起きたときのために弁護士もたくさん雇わなくてはならなくなった。建物の管理も大学がやらなければならない。そういったことにコストがかかるようになった。このコストに運営費交付金を使わなくてはならないのに、むしろ運営費交付金が減っている。 大学の教員や職員の多くは運営費交付金で雇用されている。だから、新たなコストや国からもらう運営費交付金の減少がおこると人件費が削られる。数年で結果が求められる短期のプロジェクトごとの予算や人は増えているけれど、長期的に研究する基礎科学の人は増えない。承継ポストと言われる国立大学から引き継いだポストが減っている。 人件費が削られる理由は他にもある。大学は文部科学省が決めた3つのカテゴリーに沿って大学独自のことをやらなければならなくなった。新しいことを総長の裁量でやらなくてはいけなくて、お金がどっとかかる。だから人件費を浮かせてそのお金を使って新しいことをやりましょうという流れが起きている。運営費交付金が毎年1%削減されているなら、人を1%減らすだけでいいのに3~4%減らして新規事業に回そうそいう動きが起きている。 定年になることでしか教員を減らせないので、定年退職した教員の補充を行わないという格好で人件費を削減している。新たな採用がないので若い人が就職できない。若い人が入ってターンオーバーすることによって新しいものを作っていけるのに、古い人が残っているだけになる。こんなアカデミアに若い人が残るだろうか。若い人にとっては魅力がなく、採用もないので、実際に基礎科学を志す人が減っている。 これは国立大学全体の問題なので、東大も例外ではない。東大でもやりくりに苦労していて、運営費交付金が余っている、なんてことはないし、大学院生も減っている。