夏川結衣、等身大の主婦役が人気 「まさかフラメンコまで踊るなんて」
山田監督の実演付き演技アドバイスが楽しい撮影現場
――山田監督は演出される際、ご自分で演じて見せることがあるとうかがっています。例えば、『家族はつらいよ2』では、運転免許を取り上げようと家族が画策し、そのことに気づいた周造が怒鳴り散らすリビングから、史枝がそっと抜け出すという芝居をやって見せられたそうですね? 夏川:そうなんです(笑)。それがさすがとてもお上手で。それに山田監督は普通に家事をこなせる役者がお好きなんだと思います。監督自身、「僕はパジャマにアイロンかけるのが上手いんだよ」とおっしゃるように、家事をいろいろなさるようですし。パジャマにアイロン? とは思いましたが(笑)。 今回、皆さんと話しながら、リビングでアイロンをかけるシーンがあるのですが、撮影では同じシーンを切り返して何度も撮るので、アイロンをかけることに手間取っているわけにはいきません。それに史枝は常になにか手を動かしながら、家族の行動を気にしていて、スポットが当たっていなくてもいつもそこにいるんです。ですので、どういうふうにそこにいるか。それが重要だから、よく考えてと監督にアドバイスをいただきました。
家出の際に子どもは置いて行くけれど、鳥かごは持っていくという演出の面白さ
――ひょんなことから史枝のへそくりが発覚し、それを夫の幸之助が断罪したことで、史枝は家を出ることになります。 夏川:主婦が10年、20年かけて、頑張って貯めた40万円ちょっとのヘソクリに対して、そこまで言わなくてもと、脚本を読んだときに思いました(笑)。貯めたのって年2万円ずつくらいですよ。それが20年かけて40~50万になった。西村さんも多分、「小さい男だな、幸之助って」と思いながら演じてらしたと思います(笑)。でも聞いてみると、男性は自分の稼いだお金をヘソクられるのは嫌だと感じるみたいですね。女性は、家族旅行の足しになればとか、なにか起きたときに保険にと思ってやっているだけ。上手にやり繰りしてくれてありがとう! とも考えられますよね(笑)? ――幸之助は、史枝に暴言を吐きますし、いけずな考え方をすることもあります。西村まさ彦さんが演じているからこそ、可愛げもありますが(笑)。その態度は幸之助の甘えであり、この夫婦は妻でもっていると感じました。史枝の幸之助への態度について、監督はどのように演出されましたか? 夏川:監督には、幸之助さんにひどいことを言われて、瞬発的に湧き上がる「もう嫌だ」という感情を大事にしてくださいと言われました。脚本にはいつ家を出るかは書かれていませんでしたが、史枝は翌朝、ちゃんと子どものお弁当を作ってから家出したことになっています。史枝をそうさせたのは責任感だと思います。でもあの瞬間、鳥かごの前で、史枝は出て行くことを決めていたんでしょうね。 実はあそこはとても長いシーンなんです。「お兄ちゃんなんかもう知らない」と妹の成子さんが出て行って、今度は縁側で私と喧嘩した後、幸之助さんがお風呂に入りに行く。それを1カットで撮っています。監督はずっと、カメラと一緒に動きながら、外からご覧になっていました。時折、私たちに近づいて、「何とか言ったらどうなの!?」と西村さんの肩をゆすってみたらとか、ちょっと私の感情が高ぶりすぎたときは「瞬間的にうっと泣いてほしい」などと、泣く感情の違いを細かく演出していただきました。 ――史枝は、家を出るにあたり、鳥かごを持って行きます。とても細かい演出だと思いました。 夏川:ええ。監督から、子どもは置いていくけど、鳥は連れて行くんだよと言われたとき、喜劇だなと思いました。人は深刻なときに、おかしなことをしがちですが、それこそが喜劇なのかなと。喜劇は人間の中にあるというか。脚本には、鳥を連れて行くとは書かれていません。撮影しながら、監督が付け足してくださる。そういうことが史枝のキャラクターとなって、演技を助けてくれるんです。テストのときに、私が鳥かごを持って立っている姿がおかしいと、みんなが大笑いしたんです。鳥を持って行かなければ発生しない笑い。監督の笑いのセンスの凄みを垣間見た気がします。