専大松戸・原の悲劇。なぜ2段モーションに統一見解がなかったのか。
前述の片岡氏も「県大会で問題のなかった投法が、なぜ甲子園ではルール違反なのか。野球のルールが場所によって違うのはナンセンス。おかしいよ。原は、再三審判に注意をされてリズムが狂っていた。本当に可哀想。2段モーションかどうかは微妙なフォームであることは確かだが、もし問題があるならば、試合前か試合後に注意するべきだろう」と怒り心頭。 元日本代表チームのチーフスコアラーで、現在、岡山商科大野球部の特別コーチを務めている三宅博さんも、こんな意見だ。 「高校生が注意をされて、急に今までと違うピッチングフォームで投げろと言われてもできないだろう。あの投球フォームで、独特の間とリズムを作っていたのだから、それを審判の注意で崩してしまったのは気の毒に思える。疑問に思うのは、なぜ事前に『この投法で大丈夫かどうか』というミーティングを学校側、もしくは千葉の高野連盟は、大会本部としておかなかったのだろうか。 県大会で、問題のない投法が甲子園でアウトになれば選手も戸惑うだろう。千葉の高野連側も『県大会では千葉の審判は問題にしなかったが、甲子園で大丈夫でしょうか』と確認をしておくべき。もしくは、現在は映像や情報が発達しているのだから、大会側の審判は事前に問題のありそうなものに関しては、見解を決めてチームに通告しておくべきだっただろう」 筆者もまったく同意見。 プロ野球においても、2段モーションの修正は簡単ではない。横浜DeNAの三浦大輔が、「2段モーションを厳格に禁止することになってから、フォームを変えることに大変、苦労した」という話をしていたことがある。プロでさえそうなのだから、マウンド上で突然言われた初出場の原投手が、戸惑い、制球を乱すのは当然だったのだろう。
県大会でOKだったモーションがなぜ甲子園では問題にされたのか。高校野球では、野球規則は甲子園と県大会では違うのか。確かに2段モーションにおける明確な統一基準作りは難しい。プロ野球においても2段モーションを厳しく取り締まった時期があったが、現在では曖昧になっている。ヤクルトの“ライアン”小川泰弘らも、厳格に判断すれば2段モーションだろう。 つまり2段モーションの統一基準とは、問題になりそうな選手のひとつひとつの事例を取り上げて、この人はアウト、この人はセーフという判断を下して『判例』を作るしかないのだ。今回の出場49チームの中で、事前にグレーな投手をリストアップする作業は、各都道府県の高野連から申告してもらえば、そう難しい作業ではないだろう。その映像を甲子園の審判団で見て、協議した上で、ルール内なのかルール外なのかを判断して、事前に学校に伝えておけば、今回のような悲劇は避けられたと思う。そういう作業を放棄しているのだから、県大会でOKだった投法に甲子園の本番で球審は文句をつけるべきはなかったと思う。 実は、2年前にも花巻東の千葉翔太のカット打法が問題になり、準決勝になってから事実上禁止されたことがあった。千葉のカット打法も、県大会では一切問題にされなかったが、甲子園で勝ち進むにつれ問題視され、最後は「高校野球特別規則・17」が適用されて“禁止”となった。そういう前例があったにもかかわらず、また県大会と甲子園大会で野球規則に対する統一見解にズレが生まれてしまった。 このような問題が再発しないための仕組みの整備を、高野連には求めたい。主役は、球審ではなく、汗と涙を流して、聖地にたどり着いた選手なのだ。 (文責・本郷陽一/論スポ、スポーツタイムズ通信社)