アーティストやスタッフのメンタルヘルスケアに乗り出す音楽業界 サポート体制構築へ
■アーティストとスタッフの「こころ」もケア プロジェクト「B-side」の目覚ましい進展と成果
徳留 社内でこういう仕組みを作りたい、という話をまず身近な人たちに相談し、まずは手弁当スタイルでプロジェクトが始まりました。その後、「メンタルヘルス対策に取り組みたい」と当社の上層部に話をしました。メンタルヘルスケアの必要性は社内の共通認識としてありましたので、「そうだよね」と理解を示してもらえて、必要な人員を割り当ててもらうことができました。ただ、進めていくうちに社内の認知を上げ、会社としてしっかり受け止めてもらうためには、組織化すべきだと考えるようになりました。そこで、段階を踏んで社内の体制を整えていきました。また当初は、アーティストのための取組みという発想でしたが、アーティストをケアするスタッフも含めてケアできる場所を作りたいと考えました。 ――声を挙げてから1年が経たないうちに、アーティストやクリエイター、スタッフの心と身体をサポートするプロジェクト「B-side」(21年9月)が発足しました。その活動の内容を教えてください。 徳留 B-sideで通年行っているサービスとしては主に4つあって、心や身体に関する不安について相談するとお医者さんがチャットで返答してくれる、24時間・365日匿名で相談できるオンライン医療相談アプリの提供、臨床心理士・公認心理士によるメンタルカウンセリングの提供や、健康診断での任意のメンタルのチェックアップ、スタッフへの意識付けとしての定期的なワークショップの開催、などです。 B-side対象者がいるSMEの各社から選出されたメンバーで運営していて、皆、自分の仕事を行いながらの兼務なので大変だと思うのですが、この取組みを必要だと感じてくれていて、同じ方向を向くことができています。そういう意味で、ちょっと類い稀な馬力のあるプロジェクトになっていて、すごいなと思っています。 野村 徳留さんからご相談があった時に、僕は参加できない状況にありましたが必要性は感じていたので、気になって進捗状況を聞いていたのですが、プロジェクトの進行の早さに驚いていました。制度を作るだけでなく、さらに踏み込んで、短期間で皆に使ってもらうレベルにまで持っていくというのは大変なことです。 徳留 外部の方たちからの問い合わせも徐々に増えていて、先日の音制連の新年懇親会でも、顔見知りの方からB-sideについて尋ねられました。アーティストやスタッフから「カウンセリングを受けて良かった」という声を聞くと、認知や利用の広がりを実感します。また、会議で話題に上ったり、ソニーグループの方たちが関心を持ってくれたりと、この取組みを「大事なことだ」と捉えてくれる人が増えているのを感じています。 野村 僕もこれはソニーミュージックさんだけでなく、業界として利用していくべき制度だと思うようになっていって、昨年の春に、徳留さんと外部コンサルタントとしてプロジェクトに携わる石井(由里)さんに、B-sideを音制連でも利用させてほしい、業界レベルで利用できる制度に発展させませんか、と持ち掛けたんです。また、この事業を推進するためにも、徳留さんには音制連の理事になってほしいと考えました。そこで後日、ソニーミュージックに打診をして、改めて徳留さんにオファーしたのです。 ――徳留さんは、23年6月より音制連の理事に就任されました。メンタルヘルスケアの取組みはもちろんですが、女性の意見をもっと取り入れていきたいという、野村さんの強い希望もあったそうですね。 野村 B-sideを音制連で利用したいと持ち掛けた際に、日本の音楽業界におけるジェンダーバランスの話も出たのです。僕自身は、音楽業界で働いている女性比率は高く、女性も活躍している印象を持っていたのですが、お二人は「そうではない」と。業界として女性の役員登用が遅れていることや、音制連にも女性の理事がいないことなどを挙げられ、「ボードメンバーの中に女性が入っていない」ことに僕もようやく気づいたわけです(笑)。 それもあって徳留さんには、是非とも理事になっていただきたいと強く思ったわけです。音制連はメンタルヘルスケアにも、ジェンダーバランスにも取り組んでいく。もちろん現状は、理想には程遠いことは承知しています。でも、取り組む姿勢を示すことが大事だと思いますし、そのメッセージが伝わっていけばいいなと思います。新年懇親会で、ニッポン放送の社長の檜原麻希さんにスピーチしていただいたのも、そういう背景があってのことです。