新年度に気をつけたい子どもの防犯対策 「サバンナの草食動物」から学ぶリスク・マネジメント
早期警戒に適した特徴を備えているのがキリンだ。キリンの目は顔の側面についているので、広い範囲を見ることができる。休息するときはそれぞれのキリンが異なる方向を向くようにしている。
同様に、大型アンテロープであるクーズーも早期警戒に適した特徴を備えている。クーズーは胴体の色と柄が低木の幹枝とよく似ている。そのため、茂みに隠れるのが得意だ。しかし、そうしたカムフラージュの最中でも警戒を怠ることはない。大きな耳を回転式パラボラアンテナのように前後に動かす。
<皆で守り合うことにも熱心>
このように、動物たちは周囲に対して警戒を怠ることはないが、それだけでなく皆で守り合うことにも熱心だ。 例えば、ミーアキャットの群れには見張り役もいる。その任務は大人のミーアキャットが交代で果たす。見張り役は高い場所を選んで任務に就き、鳴き続ける。ほかのミーアキャットが安心して食糧探しに専念できるよう、安全であることを知らせているのだ。しかし、ひとたび外敵が現れるとほえて危険を知らせる。その声は、地上の敵の場合は短く、空中の敵の場合は長く発せられる。警報が出されると、ミーアキャットは直ちにそろって最寄りの巣穴に逃げ込む。 ミーアキャットのチームワークの精神を見習おうと、ロンドン警視庁は地域防犯活動(ネイバーフッド・ウォッチ)のロゴマークのモチーフにミーアキャットを採用した。地域住民同士で見守り合い、助け合おうというわけだ。
チームワークに関してはシマウマも特筆される動物だ。シマウマのしま模様は天敵を混乱させる。夜行性のライオンやハイエナは白黒映像(明暗差)で物を見ている。そのため、シマウマが群れれば、個々のしま模様が複雑につながり、一頭一頭の輪郭がはっきりしなくなる。集まることでターゲットの存在を消しているわけだ。 しかし逆に言えば、群れから離れたシマウマは相当に目立つ。孤立したシマウマは格好のターゲットだ。群れからはぐれないためには互いの姿が見つけやすいことが必要である。白黒の鮮やかなコントラストはそれにも役立つ。シマウマが群れれば、敵の早期発見も容易になる。 このように、早期警戒はサバンナの弱者にとってサバイバルに不可欠な要素だ。ところが日本社会を眺めると、「犯罪弱者」である子どもたちに早期警戒の重要性を教えているようには見えない。そのため、残念ながら防げる事件も防げていない。 早期警戒はリスク・マネジメントで、防犯ブザーはクライシス・マネジメントだ。リスクは「危険」であり、犯罪が起きる前の話。対して、クライシスは「危機」であり、犯罪が起きた後の話である。 防犯のグローバル・スタンダードである犯罪機会論は「最悪の事態」を想定するので、追い込まれる前の「リスク・マネジメント」に結びつく。反対に、「がんばれば何とかなる」という日本的な「精神論」は、追い込まれた後の「クライシス・マネジメント」に結びつく。 防げる事件を確実に防ぐため、草食動物を見習い、「クライシス・マネジメント」から「リスク・マネジメント」へ、発想を転換することが必要ではないだろうか。