【視点】民主主義への脅威と八重山
民主主義は世界で圧迫を受け、衰退の危機にさらされている。最近の国際情勢を見ると、そう受け取らざるを得ない。 南米ベネズエラでは7月の大統領選で、強権色を強めるマドゥロ大統領が選挙結果の詳細を公表しないまま、一方的に自らの当選を発表した。 不正選挙の内部告発も飛び出し、野党候補は独自集計で勝利を宣言した。だがマドゥロ氏はこれを認めず、野党候補の逮捕状を取る事態に至っている。 米国などは野党候補の主張を支持し、マドゥロ氏に選挙結果の詳細を公表するよう求めているが、マドゥロ氏側は応じていない。 ベネズエラでは2018年の大統領選でもマドゥロ氏の当選に国内外から疑義が呈されている。国際社会の憂慮は当然だ。 マドゥロ政権は反米色が強く、中国、ロシア、北朝鮮といった強権的な国家との関係を強めている。世界では民主主義国家と独裁国家の分断が進む一方だ。 日本人は民主主義を世界の常識だと思いがちだが、国外を見れば、ベネズエラのように選挙が形骸化したり、選挙結果が為政者の都合のいいように操作されている事例はいくらでもある。 香港では中国返還後、民主化運動が公然と弾圧されるようになった。2020年には「香港国家安全維持法」が成立し、民主活動家やメディア関係者の拘束、起訴が日常茶飯事のように報道されている。 中国、香港にも形式的な選挙はあるが、政府が認めた人物しか立候補できない仕組みになっており、民主主義とはほど遠い。 現代の世界では、民主主義はむしろ一部の国の国民だけが享受する特権ではないかとさえ思えてくる。米人権団体フリーダムハウスのレポートによると、2023年、民主主義は52カ国で後退し、改善が見られたのは21カ国にとどまったという。世界の自由度は18年連続で低下したと指摘している。 八重山の周辺でも民主主義の危機が迫っている。ほかでもない台湾有事の懸念がそれだ。 中国は「台湾統一」を「国内問題」と主張し、日本でも「台湾有事がなぜ日本有事なのか」と台湾問題への不関与を訴える声が根強い。だが米国などが中国の台湾侵攻を座視できないのは、中国が台湾の民主主義体制の破壊を企図しているからだ。 八重山では「台湾有事が起これば巻き込まれる」という住民の懸念が大きくクローズアップされる。だが「住民さえ巻き込まれなければ、台湾や、台湾の民主主義がどうなってもいいのか」という問いかけにも、胸に手を当ててみる必要があるだろう。民主主義の価値観は、沖縄県民や八重山住民にとっても大切なものだ。 また、八重山の目前に中国共産党政権に組み込まれた台湾が誕生することは、私たちにとって脅威でしかない。 台湾から110㌔の距離にある与那国町の糸数健一町長は、米国笹川平和財団などの招きで訪米し、米政府関係者などに中国をにらんだ南西諸島の防衛強化や、台湾侵攻の抑止を訴えた。世界で民主主義への危機が迫っている今だからこそ、八重山への国際的注目も高まっている。