薬ネット販売解禁って何?/賛否が激しく対立
安倍晋三首相は6月5日、アベノミクスが目指す「規制改革」の目玉として、市販薬のネット販売解禁を挙げました。販売ルールを整備した上で、将来的には「全面解禁を目指す」そうです。消費者が手軽に医薬品を購入できるようにすると同時に、ネット上での商取引を促進し、ひいては日本経済の活性化につなげたいとの思惑があります。解禁をめぐっては激しい議論がありました。これまでの経緯をざっくり振り返ります。 これまで薬のネット販売はビタミン剤などに限られていました。どんな医薬品にも常に副作用リスクが存在するため、薬剤師によるアドバイスを受けられる対面販売が安全だとされていたのです。事実、一般薬でも年間250例の副作用被害があり、2007年度から5年間で24件の死亡、15件の後遺症が報告されています。 2009年に施行された改正薬事法は市販薬を副作用リスクの高い順に3つに分類しています。一部の胃腸薬など特に注意すべきものが第1類、風邪薬や頭痛薬などが第2類、整腸薬やビタミン剤などが第3類です。
ネット販売一律禁止は「違法」
厚生労働省はこのうち第1、第2類を薬局での対面販売のみとし、インターネットを通じての販売を禁じていました。「薬剤師・登録販売者等におかれては、一般用医薬品を使用者へ提供する際には、各医薬品に応じ、副作用の初期症状についても情報提供を行い、使用者自身での自覚症状の確認を促す」(医薬品・医療機器等安全性情報 NO.293)よう勧めています。 しかし最高裁は今年1月、第1類、第2類の医薬品についてネット販売を一律に禁じた厚労省の省令を「違法」と認定。これにより医薬品のネット販売は事実上解禁され、厚労省は新たな販売ルールの検討に入っていました。今回の政府方針は第1類と第2類についてもネットで買えるようにするものです。 これが実現すると、一般用医薬品の約1万1400品目のうち99%超の医薬品がネットで買えるようになります。ただし第1類のうち、鎮痛剤ロキソニンSなど特に副作用リスクの高い25品目は除外するよう検討されています。
薬剤師や薬害被害者団体は解禁に反対
懸念されているのは安全性の確保です。日本薬剤師会、日本チェーンドラッグストア協会、全国薬害被害者連絡協議会などは、ネット販売では安全性は確保できないとして、解禁に反対しています。 一方、ネット販売業者は「国民の利便性向上のためネット販売の全面解禁は不可欠」「対面販売だからといって必ずしも安全とは限らない」と反論。ネット技術に精通する関東学院大経済学部の岡嶋裕史教授は「ネット販売であっても技術を使ってより安全にしていくことはできる」「安全性を担保するために、購入者に薬について説明しなければならないというなら、テレビ電話の使用を義務づければいい」と話しています(産経新聞4月19日)。