タイヤのブリヂストンが“謎のサロン”を下北沢にオープン。マッサージかと思いきや…
家具なのか、ロボットなのか。なんとも言えないこの物体に10分間だけ身を任せてみる。 【全画像をみる】タイヤのブリヂストンが“謎のサロン”を下北沢にオープン。マッサージかと思いきや… 空間の名前は“無目的室”。この謎多き催しが下北沢で12月20日(金)まで開催中とのことで、実際に体験してみた。
「無目的で訪れる」謎の空間
下北沢駅から徒歩で2分。ミカン下北棟内で開催中の「“無目的室” Morph inn Shimokitazawa」は、その名の通り、“無目的”をテーマとしたサロンだ。 サロンと聞いて想像もつかないが、実はあのタイヤメーカーで知られているブリヂストンが関わっているという。その理由については後ほど説明していく。 大きな金属製の扉を開けると、部屋全体が赤色で満たされた空間にベッドのようなものが2つだけ並んでいた。 さっそく簡単なアンケートに答えて、コンシェルジュから説明を受けたら、いよいよ別室で体験が始まる。
3ステップで「無」になる
体験は、「無前・無中・無後」の3段階で構成される。無前では、実際にロボットと過ごす“無中”体験を最大化するための準備をする。 まずはヘッドホンを装着し、神経科学の観点から生まれた「ニューロミュージック」を聴いた。楽曲名は「ととのう」。3分間聴き、脳を整える。日常生活では、何か作業している時に音楽を聴くことが多い。音だけに集中する体験で、自然と緊張がほぐれていった。 次に、2種類の栄養ドリンクが渡された。睡眠の質に対して効果があるとされるグリシンと、15分後にすっきりとした目覚めをもたらすとされるカフェインを摂取することで、Morphでの体験効果を最大化する狙いがあるという。
同じ動きでも感じ方は“人それぞれ”
いよいよ、メインの“無中”体験に移っていく。特に着替えは必要なく、来店したままの服装で体験できる。 これから体験するのは、大きく2つのロボットに分けられる。曲線型をしたベッドのような「Morph」、掛け布団のように上から被せる「Morph mini」だ。 これらはマッサージチェアのように、特定の箇所だけを押したり、ほぐしたりするものではない。Morphには「ラバーアクチュエーター」というゴム人工筋肉が用いられており、感圧式で身体を包み込むようにその形を変化させていく。 このゴム人工筋肉こそ、同じゴム素材であるタイヤメーカーとして知られるブリヂストンの技術が結集しているというわけだ。 チューブ状になったゴム人工筋肉は、動物を彷彿とさせる。4本足のMorphには6本、尺取り虫のように動くMorph miniには2本入っており、合計30本のチューブが繊細な動きを可能にしている。 Morphに横たわると、身体の凹凸の形状に合わせて、自然と楽な体勢に。ビーズソファに包まれるようなイメージにも近い。上からMorph miniを乗せ、10分間の体験が始まった。 Morphはゆっくりと動き始め、水に浮いているかのようにゆらゆらと身体を揺らしていく。ピクピクと身体を突っつく動作もありながら、ゾウのような大きな動物の上で呼吸を感じているような感覚になる。 体験中は水の中にいるような音から金属音まで、さまざまな音が流れる。まるで、生まれてからの人間の一生を想起させるようだ。 私は最初「無目的室」と聞いた時、何を持って“無”を感じ取ればいいのか分からなかったが、体験してみると「次はどんな動きをするんだろう」とこの不規則な動きに集中している自分に気づく。これこそ、“無”になるということなのかもしれない。 ゴム人工筋肉は、ただランダムに空気を出し入れしているわけではない。数十種類の自然界のモーションが空気圧として再現されているのだ。例えば、水の流れや、動物の皮膚や毛の映像。それらの特徴的な部分を点でキャプチャーし、その2次元情報は、空気の出し入れという1次元情報に変換されてロボットの動きを操作する。 毎回同じデータを使って同じ動きをしているが、体験する人や回数によって、考えることや感じ方が違うのだという。 10分間の体験が終わると、“無後”の時間だ。ここからは有料となるが、下北沢の老舗BAR「FAIRGROUND Bar&Wine shop」で、無を表現した特製カクテルが提供される。店員自らMorphを体験し、作られたオリジナルカクテルである。 また、「TSUTAYA BOOKSTORE 下北沢」内の「SHARE LOUNGE」やワーキングスペース「SYCL by KEIO」での割引券ももらえるので、Morphでの余韻を残したまま、作業や読書に没頭できる。 Morphを手がけるのは、ブリヂストン発の社内ベンチャー「ブリヂストン ソフトロボティクス ベンチャーズ」。製造や物流の現場で使われるソフトロボットハンド「TETOTE」を主力事業としてきた。 だが、ある展示会では、意外にも柔らかいロボットと人間が“触れ合う”という側面でも良い反応が得られたことから、ウェルビーイングにおける活用を模索。その結果、Morphのアイデアに行き着いた。 ブリヂストン ソフトロボティクス ベンチャーズCEOの音山哲一氏は、 「タイヤはブリヂストンの最高の技術。タイヤは地面と触れるもので人の命を預かっている。これからは地面とだけではなく、“人と触れ合う”面で関わっていきたい」 と語った。 表参道、虎ノ門ヒルズと続いて、開催は今回が3回目。一般消費者やビジネスパーソンを中心に無料体験を提供してきたが、今回は初回税込1500円からという有償での期間限定店舗となる。ホットペッパービューティーから予約ができることもあり、ポイントを使いたい主婦層やビジネスパーソンなど、利用客の裾野が広がっているという。 2025年、Morphは世界的な家具見本市「ミラノサローネ」での発表を予定している。海外でもこの体験が刺さるのかどうか、期待したいところだ。
上野翔碁