雪組スター・和希そらが影のある色気をみせる作品「双曲線上のカルテ」
「双曲線上のカルテ」は、渡辺淳一の医療小説「無影燈」をイタリアに舞台を移しミュージカル化した作品だ。2012年に雪組・早霧せいな主演にて初演。それが11年ぶりに再演となった。初演の脚本・演出は石田昌也だが、今回は潤色・演出を樫畑亜依子が担当している。 【写真を見る】 再演を観て、初演の時には感じ取れなかった色々なことを感じた自分に驚いた。おそらくこれは演出の変化に加えて、私自身が歳を重ねたせいもあるのだろう。その間、医療機関にお世話になるようなこともあったし、親の老いにも直面し、人生の残り時間についても以前より考えるようになった。 演劇は観る側の変化によっても受け取るものが全く変わってくる。再演作品が全く違う作品のように見えたりもする。それが面白いところだと改めて感じた作品だった。 主人公のフェルナンドは天才的な腕を持つ外科医だが、酒を浴びるように飲み、多くの女性と浮き名を流すなど、その破天荒な生き方は周囲の反発を買っている。だが実は彼には、自身が不治の病を抱えているという秘密があった。フェルナンドは残された命を外科医として燃やし尽くすべく、様々な患者の命と向き合っていく。 このフェルナンドを演じるのが、今年惜しまれつつ退団した雪組の男役スター・和希そらだ。「夢千鳥」(2021年)の竹久夢二、「心中・恋の大和路」(2022年)の亀屋忠兵衛と、一癖も二癖もある役柄での主演で男役としての経験値を積んできた。その和希が満を持して見せるのが、無頼に生きているように見えて、実は人一倍繊細で、誰よりも矜持を持って医者としての仕事に挑んでいるひとりの男の生き様だ。 その影のある色気も魅力的で、巷では「フェルナンド先生の診察を受けたい!」という声も多く聞いた。その一方で、タイムリミットを突きつけられた人がその状況と精一杯向き合おうとする姿とはこういうものなのだろうかと考えさせられるフェルナンド先生でもあった。 フェルナンドにとってかけがえのない存在となっていくのが、看護師のモニカ(華純沙那)だ。極限状態ともいえるフェルナンドにいかに必要な存在であったかということが伝わってきた。 フェルナンドの同僚であるランベルト(縣千)は、正義感が強く竹を割ったようなまっすぐな性格で、フェルナンドとは好対照な存在感がいい。 再演なのに、その他のキャストもそれぞれにハマり役であった。特にピザ屋のチェーザレ(桜路薫)の実直な芝居や、アントニーオ(咲城けい)の好青年ぶりなどが印象に残った。本編のテーマが重いだけに、華やかなフィナーレの存在に救われる。 人は「死」とどう向き合うかという、「果たしてタカラヅカで扱うことができるのか?」と考えてしまうようなテーマに挑んでいる。夢々しさで誤魔化すべきではないだろうが、深刻になり過ぎると辛く、バランスが難しい。そのバランス具合が絶妙な作品である。 文=中本千晶
HOMINIS