容疑者判明も「めんどくさい」捜査せず“2度目の被害”発生…巡査は書類送検、被害者への“補償”は?
警察の捜査を巡り先月11日、耳を疑うような報道があった。兵庫県警の駐在所に勤務する男性巡査部長(52)が、容疑者が分かっている「住居侵入事件」について、「休日に通報があり、面倒くさかった」などと報告や捜査を怠っていたとして、懲戒処分(停職3か月)されたというもの。 【画像】交番などに勤務する“地域”警察官の検挙率は高い 男性巡査部長は犯人隠避容疑で書類送検され、依願退職した。 最初の通報から7か月後、被害者が「男がまた侵入した」と通報したことで、巡査部長の“職務怠慢”が発覚したという。 どのような経緯で「住居侵入事件」が起きたのか詳細はわかっていないが、容疑者が明らかな状態で7か月もの間、事件が放置された被害者の不安は想像に難くない。 大阪府警で行政職員として勤務した後、弁護士に転身した堀田和希弁護士は今回のケースにおいては、「国家賠償請求が認められる可能性がある」と話す。
「捜査しない」警察への国家賠償の難しさ
堀田弁護士が「今回のケース」と強調する背景には、警察の捜査について言及された最高裁判所の判例がある。 〈犯罪の捜査及び検察官による公訴権の行使は、国家及び社会の秩序維持という公益を図るために行われるものであって、犯罪の被害者の被侵害利益ないし損害の回復を目的とするものではなく、また、告訴は、捜査機関に犯罪捜査の端緒を与え、検察官の職権発動を促すものにすぎないから、被害者又は告訴人が捜査又は公訴提起によって受ける利益は、公益上の見地に立って行われる捜査又は公訴の提起によって反射的にもたらされる事実上の利益にすぎず、法律上保護された利益ではない〉(最高裁平成2年2月20日判決) 「つまり、警察の捜査の目的はあくまで社会の秩序維持であって、それにより守られている国民一人一人の安全は“事実上の利益“に過ぎず、法律上保護されるべき利益とは考えられていないということです。 したがって、警察権(公権力)の不行使があったとしても、国家賠償請求は“基本的には”認められません」(堀田弁護士) その上で、今回のように「警察官に警察権の行使義務があったにもかかわらず行使しなかったこと」が原因で犯罪が生じたと言える場合では、国家賠償請求が認められているケースもあるという。 「『警察権の行使義務があったかどうか』は、具体的に、以下の要件を満たすかがポイントになります。さらに、事件が殺人や傷害だった場合は、以下の要件を満たすかどうかの判断において、捜査時に担当警察官により慎重な判断が必要だったと考えられますので、請求が認められる可能性も上がるかと思います」(堀田弁護士) 【「警察権の行使義務がある」と認められる要件】 ①危険切迫性の存在 犯罪等の加害行為、特に国民の生命、身体、名誉等に対する加害行為が正に行われ又は行われる具体的な危険が切迫していること ②危険切迫性の認識 警察官において①のような状況であることを知り又は容易に知ることができること ③警察権行使による結果回避可能性 警察官が上記危険除去のための警察権を行使することによって加害行為の結果を回避することが可能であること ④警察権行使の容易性 警察権の行使が容易であること