考察『光る君へ』16話 『枕草子』づくしの華やかな宮廷サロンの影、都には「疫神が通るぞ」…極楽に清少納言、地獄に紫式部
桜の直衣の意味
登華殿でのお招きの後の、公任たちの打ち上げ。 帝の美しさにぽーっとなっている行成に、斉信の、 「おまえ、道長じゃなかったのか」 あ、やっぱり行成の恋心は道長にあったのね。そしてそれは仲間内では周知のことであったと。 同性愛が重く受け止められずからかわれもせず、仲間内でのサラッとした会話で示されたことに安堵した。 公任「帝の御前で伊周殿のあの直衣は許しがたい」 斉信「帝がお許しになっているのだからどうにもならぬが」 帝の御前なので、公達はみな束帯の完全フォーマルだった。伊周だけは桜の直衣。直衣は束帯よりも若干カジュアルである。 登華殿で伊周が「ここは政務の場ではございません」と述べ、おそらく招待の際も現代に例えれば「平服でお越しください」というやつだったのかもしれない。それでも中関白家の隆家は束帯だったのだから、公達がみな「そうは言っても、主上がおわすのだし」と、フォーマルで来ることを見越して、あえて伊周のみの直衣だろう。ナレーションのとおり「帝との親密さをことさらに見せつけ」る図である。『枕草子』第二十段の大納言殿の桜の直衣を、こう使うのか……なるほど、と思った。 同じ夜、登華殿の華やかな戯れを目にして帰宅した道長(柄本佑)と倫子夫婦。 「彰子を入内させるなんてお考えにならないでくださいね」 「このままでよい。このまま苦労なく育ってほしい」 両親の思いはこうなのに、なぜああなった……と頭を抱える。ところで、さりげなくだが嫡男・藤原頼通が生まれて道長に抱っこされている?10円硬貨の表面に彫られている、平等院鳳凰堂のあるじだ。
「まひろ」の名前を聞いて……
詮子(吉田羊)が一条帝を訪ねる場面は、最初から最後まで女院・詮子にとっては腹立たしさしかなかったろう。 隆家の「あ。誰か来た(見えてるんだから、女院様とわかってるのに『誰か』と表現)」に始まり、伊周のおわかりいただきたくお願い申し上げますと言葉は丁寧だが直訳すると「おばさん、古いんだよね。イマドキの後宮はこうなの」という説教といい。道綱ですら「肝が冷えたよ~!」となる不遜ぶりだった。 道隆、道兼、道長の三兄弟と違い、伊周と隆家兄弟の危うさは、ふたりともぶっちぎりに調子に乗ってブレーキをかける役がいないことだ。 ところで、このときの様子とともに石山寺でのできごとを道長に報告する道綱、「まひろ」の名前を聞いた瞬間の道長の顔を見たら、もう一度肝を冷やしたのではないか。一瞬すごい殺気でしたよ。