【ジョーカー2】平田広明と山田裕貴が演じていて不安になった抑えた芝居
自分の感覚を信じて演じたハービー検事
――獄中で生活しているジョーカーですが、壮絶な姿になっていました。 平田 普通の人の2年じゃなくて、獄中での2年ですからね。前作よりずいぶんくたびれているということもあってホアキンもそれに合わせた減量をされたそうですし。「大変だな、映像に映るプロの俳優の仕事って」なんてパリパリとポテチ食いながら思っていました。 山田 (笑) 平田 ホアキンも多分「2年後だからジョーカーはこうだ」なんて考えて役作りを演じているわけじゃないと思うんです。その間に彼に何があったのかが大事だと思ったので、僕もジョーカーを演じるホアキンを何度も見直しながら、彼の出す音をそのまま出すということだけを考えて演じさせてもらいました。 ――山田さんはそんな平田さんのジョーカーをご覧になってどんな感想を持たれました? 山田 ホアキンならではの細かい仕草にもしっかりと音を入れられているんですよ。「鼻で息を吸った音まで入っている」ところは本当に「スゲェ」の一言でした。他にもリーとふたりでいるシーンでは「この人に惚れている」ということがアーサーの声の音圧だけで分かるんです。温度感だけでなく声の成分までもがジョーカーのときと全く違うように演じ分けているところもさすがだなと思いました。 ――ハービー検事についてはどう演じられていったんでしょうか? 山田 台本を渡されたものの、演技について「こういう意図があって」みたいな説明はなかったんです。なので、演じているハリー・ローティーさんのお芝居を見ることで役作りをしていきました。ハービー検事は初め、民衆の前で「ジョーカーは犯罪者だ」みたいなことを語るのですが、その後の法廷ではすごく冷静にジョーカーを追い詰めていくんです。その淡々とした感じが逆に気持ち悪くていいのかなと思いつつも、ハリー・ローティーさんがどんな音圧、どんな音で声を出しているのかを聞いて、それに合わせながら演じさせてもらいました。 ――平田さんは山田さんの演技についてはどのような印象をもたれましたか? 平田 やりづらかっただろうなと思って。彼に限らずだけどみんな収録で「余計な芝居をしないで」って言われていたんです。音響監督から「もっと抑えて」「もっと芝居しないで」って常に要求されていて、一緒に録ってた村中さんも「え? もっとですか?」と戸惑っていました。村中さんもお芝居に長けた声優ですし、リーを演じたレディー・ガガの演技に合わせた役作りの準備をしてきていたはずなんです。でも「もっとやらなくていい」ですからね。そりゃ演じている方も不安になりますよ、「じゃあ何すればいいの?」って。 山田 (笑) 平田 だからといってボソボソ台本読めばいいのかっていうとそうじゃないわけで。そんな風にセリフを謳う気持ちよさを一切許さないのがこの『ジョーカー2』の現場ではありました。あのハービー検事という役なんてまさにそうだよね? 山田 そうですね。もうずっと不安でした。でも僕はその抑えたところをちゃんと守りたいなと思ったんです。音圧を上げるわけじゃなく、淡々とただそこにいるだけみたいな、そんな声になったらいいなというのがあって。音が出過ぎてしまわないように、細かな声色みたいなのを自分の中で探っていきながら、「これだったらニュアンスが伝わるかな?」という音の感覚を信じてセリフをはめ込んでいった感じです。 ――実際にクライマックスまで映像をご覧になっての作品の印象はいかがでしたか? 山田 本当に色々な答えを持っている作品だと思います。僕も字幕版と吹替版を一回ずつ見させてもらったんですけど、字幕版より吹替版の方が「あ、こういうことなのかも」というのがスッと入ってきた気がしていて。それは見たのが字幕版に続いて二回目だったからっていう可能性もあるんですけど(笑) 平田 一回見て「わかった。面白かった」で終わる映画じゃないんですよ。見る人によって感じることは違うと思うんですが、鑑賞後に必ず「これってどういう解釈なんだろう?」っていう疑問が浮かんできて、そのことを考えていくうちにまた新たな疑問が湧いてきて、そのたびに印象が変わっていくみたいな、そんな作品になっているような気がしています。明るく楽しいお話しじゃないんで何度も見るのは人によっては辛いかも知れませんが、それでも何回も見ないとわからない映画なんじゃないかなっていうのはありますね。わかったところで暗い気持ちになるだけかもしれないけど。 山田 (笑)
ライター 川畑剛