【社説】水俣病患者救済 国と国会は恒久策を作れ
もはや法の不備は明らかである。国と国会は「被害者をあたう(可能な)限り救済する」の理念に従って、恒久的な救済策を作るべきだ。 水俣病被害者救済法による救済を受けられなかった新潟水俣病の未認定患者らが、国と原因企業の旧昭和電工(現レゾナック・ホールディングス)に損害賠償を求めた訴訟で、新潟地裁は原告47人のうち26人について水俣病罹患(りかん)を認め、同社に賠償を命じた。 判決は国への賠償請求を退けたものの、救済法の対象から漏れた被害者がいると認定した事実は重い。 同種の訴訟は全国4地裁で起こされた。昨年9月、大阪地裁は原告全員を水俣病と認め、国などに賠償を命じた。原告全員の請求が棄却された今年3月の熊本地裁判決は、提訴が遅かったとして賠償請求を退けつつ、原告の一部を水俣病と認定した。 3件目の判決となった今回を含め、司法は国に対して、水俣病被害者の救済拡大を迫ったと言えよう。 新潟地裁判決は、民間医師による共通診断書を基に原告全員を救済した大阪地裁判決から後退したが、26人の症状や経過を検討してメチル水銀摂取との関連を認定した。 民法の損害賠償請求権が20年で消滅する除斥期間に関しては「正義・公平の理念に反するため適用すべきではない」と結論付けた。 罹患の可能性を認識できなかったり、差別や偏見を恐れて救済申請をためらったりした可能性があると判断した。被害者の実態を捉えており評価できる。 新潟水俣病は、新潟県の旧昭和電工の工場がメチル水銀を含む排水を阿賀野川に流したことが原因とされる。熊本県で水俣病が公式確認された9年後の1965年5月に公式確認された。 74年施行の公害健康被害補償法に基づく認定患者数は、今年3月末時点で716人にとどまり、多くの未認定患者が被害を訴えている。 被害者救済法は「水俣病の最終解決」を目的に議員立法で2009年7月に成立し、施行された。埋もれた被害者を漏れなく救済する立法趣旨にもかかわらず、申請は約2年で締め切られた。 とにかく早く幕を引きたいというのが、国の本音だったのではないか。 新潟県では2079人が救済を申請し、120人が一時金や医療費の支給対象外となった。こうした人や申請できなかった人たち計約150人が13年12月以降、順次提訴したのが今回の訴訟だ。 4地裁に提訴した1700人を超える原告のほとんどは高齢者だ。国はこれ以上、裁判を長引かせてはならない。原告側の求めに応じて和解のテーブルに着くべきだ。 さらに国会と協力し、裁判をしていない被害者を網羅的に救済する制度を速やかに創設する。その責務を果たすよう強く求める。
西日本新聞