映画『あの人が消えた』は先読みできないから面白い!──高橋文哉主演で9月20日に劇場公開
人が消えるという噂のあるマンションを舞台に、主人公が事件に巻き込まれていくミステリー・エンターテインメント映画『あの人が消えた』が9月20日(金)から劇場公開される。先読み不可能と噂の本作の見どころをライターのSYOがレビューする。 【写真を見る】田中圭、染谷将太、菊地凛子らが出演(全14枚)
ヒットドラマ「ブラッシュアップライフ」の演出を手掛けた水野格が、脚本・監督を務めたオリジナル映画『あの人が消えた』が、9月20日に劇場公開される。本作は、「人が消える」といういわくつきのマンションの担当になった宅配業者が、怪しげな住人の正体を探るミステリー。2021年のドラマ「最愛」で一気にブレイクし、『ブルーピリオド』でも存在感を放つ高橋文哉が主演し、田中圭や北香耶、染谷将太らが共演。 コロナ禍のあおりを食い、バイト先の飲食店をクビになってしまった丸子(高橋)。「誰かに必要とされる仕事をしたい」とエッセンシャルワーカーとして注目度が上がっていた宅配業者を志すも、現実はそう楽なものではなかった。感謝されることもなくはないが、分刻みのスケジュールをこなさねばならず、時間通りに届くのが当然で遅れれば文句を言われる。心身をすり減らすなかで出合ったのが、コミヤチヒロというWEB小説家が日々投稿する「スパイ転生」だった。最新話の更新を楽しみに日々の仕事を踏ん張る丸子。ある日彼は、担当先のマンションの住人・小宮(北)に荷物を届けた際、執筆中のPC画面を目撃。小宮は「スパイ転生」の作者では?と舞い上がるが、時を同じくして住人の島崎(染谷将太)に小宮のストーカー疑惑が持ち上がる。丸子は小宮を守るため、他の住人に聞き込みを開始するのだった──。 オリジナル作品の観客における面白さの一つは、原作がないため事前に全容を知る手段がないこと。「何が起こるかわからない」状態で観賞に臨み、新鮮な驚きを得られるものだ。『あの人が消えた』は予告編で「この映画の結末は誰にも話さないでください」と謳っているとおり衝撃的なラストが待ち構えており、オリジナル作品としての特性をフルに生かした作品となっている。 サプライズはラストだけでなく、3章立ての第2章で予想外の展開が用意されており、第3章でも大きな動きが起こる。観る者を翻弄するトリッキーな作りで、序盤から伏線が張りめぐらされ、キャラクターの名前や衣装、小道具にも水野監督がこだわり抜き、メッセージや様々な映画のオマージュを細かく忍ばせている。そのため、未見の人々に配慮するならば結末どころか、第2章以降のストーリーを何も言えないのだ。まさに映画紹介泣かせな「ネタバレ厳禁」の作品だが、逆に言えば「この映画は何も情報を持たずに観てほしい! そのほうが絶対に面白いから」と思うほどに衝撃度が大きいということでもある。 ここで、個人的な話を少々挟ませていただきたい。筆者は本作のオフィシャルライターを務めているのだが、依頼時が少々異様だった。通常は作品情報をある程度提示されたうえで検討するものだが、宣伝担当者に言われたのは「まずはまっさらな状態で観てほしい」だった。一部のスタッフ・キャストしか知らされていない状況で観賞し、「なるほどそういうことか……これは確かに何も知らないほうが楽しめる」と合点がいき、担当者の計らいに感謝した次第。 コスト/タイムパフォーマンスを重視する昨今の世相においては「詳細がわからないものに2時間と2000円弱を投資するのは非効率でありギャンブル」という意識が強まっているようにも感じられる。映画を1本観るにも「失敗したくない」と思う人は増えているのではないか。事前の情報が少ない『あの人が消えた』の観賞を尻込みしてしまうかもしれないが、どうか安心してほしい。あくまで爆発力を高めるための“配慮”で隠しているだけであって、作品自体の面白さはあなたをちゃんと満足させてくれるはずだ。 なお、水野監督はクリストファー・ノーランやデヴィッド・フィンチャー、M・ナイト・シャマラン、マーティン・スコセッシにアルフレッド・ヒッチコックといった様々な作り手の作品に薫陶を受けてきた人物。日本の次世代エンタメを引っ張るクリエイターが、先達から何を受け取りどう変換して自分のものにしているか──そうした映画ファン的な目線でも楽しんでいただきたい。