版元出版社の社員も読み切れなかった名作『百年の孤独』…文庫化で読みやすいよう工夫しベストセラー(レビュー)
コロンビアのノーベル賞作家であり“マジックリアリズムの旗手”として知られるガブリエル・ガルシア=マルケスの代表作『百年の孤独』。本好きなら一度はその名を耳にしたことがある名著中の名著だ。酒好きなら焼酎の銘柄として認識しているかもしれないが、そちらの名前も本作が由来。1972年に鼓直による日本語訳の単行本が新潮社から刊行されて以来、装いを少しずつ変えながら売られ続けてきた。累計部数は五十年間でおよそ30万部。 そんな誰もが知る名作が先月末文庫化されたのだが―発売前重版を含めすでに五刷が決定(! )、累計部数は実に19万部だ。発売当日にジュンク堂書店池袋本店で行われた刊行記念イベントはほぼ満席、在庫の1500冊も瞬時に売り切れたという。一方、企画に関わったスタッフは「社内で予めアンケートをとってみたら既読のスタッフが想像以上に少なかった」と苦笑まじりに告白する。気づけばみんな“知ってるけど知らない”まま半世紀経っていた―それこそ著者の作品世界のようだ。 「まさにそういう方々が“今度こそ”と手に取ってくださるようなつくりを目指して文庫化したので今の活況はとても嬉しいです。私自身、学生時代に意気揚々と買ってそのまま本棚に寝かせてしまった経緯があるので……」とは担当編集者の弁。なんとも勇気づけられる発言ではないか。 文庫版には筒井康隆による初読者向けの濃やかな気遣いにみちた解説を付したほか、“名作”として佇まいを洗練させるのではなく、作中世界の猥雑な魅力を具体的にイメージしやすいような装幀を心掛けた。 「名前がひとり歩きし、ハードルが高いと感じる読者も多いと思いますが、実物は訳文のリズムも相まって意外にするする読めるし、なにより情景が鮮やか。陰惨な歴史に抗うように紡がれた“生き延びるためのユーモア”をぜひ味わってほしいです」(同) 今年でガルシア=マルケス没後十年。 「作家が亡くなっても読まれる状況をつくるのが出版社の務めであり、文庫の持つ大切な役割のひとつだと思っています」(同) [レビュアー]倉本さおり(書評家、ライター) 1979年、東京生まれ。毎日新聞文芸時評「私のおすすめ」、小説トリッパー「クロスレビュー」、文藝「はばたけ! くらもと偏愛編集室」、週刊新潮「ベストセラー街道をゆく!」を担当、連載中。ほか『文學界』新人小説月評(2018)、『週刊読書人』文芸時評(2015)など。ラジオ、トークイベントにも多数出演。作品の魅力を歯切れよく伝える書評が支持を得ている。 協力:新潮社 新潮社 週刊新潮 Book Bang編集部 新潮社
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