「宮崎駿さんとの仕事は行間を理解しなければできない」 ジブリ作品の音楽を手掛ける作曲家・久石譲が語る
黒木)そのなかで試行錯誤されるのですか? 久石)まだ実作業には入らないのですが、『もののけ姫』のときは内容がヘビーでしたから、「これは考え方を追い付かせないといけないな」と思い、当時宮崎さんが堀田善衛さんと対談していたものなど、周辺の本をほぼすべて読みましたね。 黒木)そこからインスピレーションを受けたのですか? 久石)「何をつくろうとしているか」を理解するために、こちらも勉強しないといけないのですよ。そういうことも含めると、関わる時間は長くなってしまいますね。 黒木)単純に「音楽が下りてくる」という感じではなく、「どういうものをつくりたいのか」を理解してから音楽づくりに入るということですか? 久石)宮崎さんはあまりいろいろなことを説明しないのですよ。こちらも行間を理解しないといけません。いまの映画は説明しすぎるので、観る人のイマジネーションをかき立てることが少ないのです。宮崎さんの場合、今回の映画『君たちはどう生きるか』にしても、1回観ただけでは理解しづらいのですよ。それがかえっていい。 黒木)なるほど。 久石)だからリピーターがすごく多くなる。「多分こうじゃないか」と観る側が想像力を働かせるのですよね。それでよくなっている。例えばキューブリックの映画もそうですし、リドリー・スコットの『ブレードランナー』など、昔の映画はそうですよね。映画がある程度飛躍していてくれるから、観る側が想像力を働かせなければいけなくなる。いまは少し過剰に説明しすぎていますね。 黒木)『君たちはどう生きるか』は、音楽をつくるのも難しかったのではないですか? 久石)そうですね。パッと観た瞬間、「いままでの作品とは違うな」と思ったし、私とのやり方もいままでとは全部変えてきたのですよ。今回は絵が完成するまで、一切こちらに見せてくれなかったですね。そういうことがあったから、ギリギリのところでつくった気がします。ただ、私はいま現代音楽の作曲もやっているので、「ミニマル・ミュージック」と言いますが、同じパターンを繰り返すのですよ。その方法論で映画音楽をやり切ったので、宮崎さんもすごく喜んでくれましたね。