汗かき役に奔走したJ2頂上決戦…清水を背負うFW北川航也、葛藤の先に思い描く原点「だからこそゴール前で仕事ができる選手に」
[9.28 J2第33節 清水 1-1 横浜FC 国立] 攻撃では1トップのポジションで起点を任され、守備では右シャドーで相手キーマンのマークをしながら幅広いエリアをカバー。国立競技場にJ2史上最多55598人が集まった頂上決戦の舞台で、清水エスパルスFW北川航也は数多くのタスクに奔走していた。 【写真】ミスマガジン2023、16歳グラドルのユニ姿に「最高に可愛い」「天使」「くぅー!」 かつてはアカデミーが産んだ待望のエース候補としてブレイクし、日本代表としてアジア杯に出場した実績も持つストライカーだが、海外挑戦から復帰して約2年、いまはチームの未来を切り拓くべく、時にはゴール前でのチャンスも犠牲にしながら求められた役割に取り組んでいる。 清水はこの日、前節浮上したJ2リーグ首位という立場で2位の横浜FCと国立競技場で対戦。普段は4-2-3-1のシステムを採用しているものの、秋葉忠宏監督は横浜FC対策として守備時5-4-1の布陣を採用した中、北川は攻撃時1トップ、守備時右シャドーという変則的な役割を担った。 求められたのは横浜FCの攻撃の起点で、今季J2ダントツ最多の14アシストを記録しているDF福森晃斗のマーク。攻撃の軸を担うMF乾貴士の守備負担も請け負うがのごとく、何度もポジションを入れ替わっていた。北川によると「ビルドアップの始まるところが福森選手の左足だったのでそこをケアしながら、奪った時は背後に出ていくところだったり、そこからチャンスを広げていく狙いで試合に入っていた」という。 普段の4-2-3-1の布陣でも、両サイドハーフに攻撃に強みを持つブラジル人選手が起用されることが多い中、守備での上下動を担っている北川。だが、力量差から攻撃に回る時間帯が多い普段の試合とは異なり、この日は立ち上がりからボールを握られる時間が続いたことで、より守備のタスクが重くのしかかっているように思われた。 結果的には0-1とリードされた後半23分に途中交代。「右にケアに行っている分、前線に入ることが遅れたりもあるし、その中でもやらないといけないけど、普段やっているような形ではなかなかプレーできなかったという終わってみてからの印象」。カウンターから出ていく時のプレー判断、深く戻らされた場面の味方につなぐパスなど、この役割で大きく成長した部分を見せながらも、個人としては不完全燃焼のまま首位決戦を終えることになった。 高卒4年目の2018年にはJ1リーグで13ゴールを挙げ、一躍日本代表に上り詰めた過去を持つストライカーとして、この役割に葛藤がないわけではない。それでも2022年夏、3シーズンを過ごしたオーストリアのラピド・ウィーンから帰国したが、同年にチームはJ1残留に失敗。昨季はJ2リーグで大半の時期を控え選手として過ごしていたこともあり、信頼を掴み取るために必要な仕事でもある。 「試合に出るため、このチームのためを思うとそういうこともやらなければいけない。自分たちの左サイドを突破されたらボランチまで戻ることもそうだし、それをやらなければ試合に出られなくなるし、それをやっているから試合に出られているところもある。自分の良さ、前に出ていく爆発力をもっと出せればと思うけど、やらないといけないことはこのチームの決まり事でもあるので、そこは最低限のこととしてやっている」 「今のチームであればつなぎに参加するのはもちろんそうだし、ゴール前に入っていくのもそうだし、守備のスイッチ役になるのもそうだし、いろいろやることはあるけど、自分が成長するため、大きくなるために必要な要素でもあると思う。そこはポジティブに捉えながら、ミスもあるし、うまくいかないところもあるけど、うまくいっているところもあるので、ポジティブに捉えてプレーできているかなと思います」 実際、今季はそうした奮闘の成果により、シーズンを通して主力の座を守り続け、チームもJ2首位で終盤戦に突入。北川自身は「そこは自分だけじゃなく全員がやってくれること。ハードワーク、全員で守備をして全員で前に行く、当たり前のことを当たり前にやらないと結果に結びつかないのは去年から学んでいる。全員がやれているからこの順位にいる」と周囲への敬意を強調するが、このタスクを担いながら10得点6アシストを記録しているエースの復活が今季の成績につながっているのは間違いない。 もっともそれと同時に、J1昇格後のチームを見据えると、自身がより絶対的な結果を出していくことの必要性も実感しているようだ。 プレーの幅を広げ続けてきた今季の取り組みについては「正直、自分の成長を考えたら必要かもしれない」と前向きに位置付けつつも、「今日のような戦いをしていたら自分の良さは出ないし、出場している時間帯で自分のストロングが出せていたかと言われたら疑問が残る」とキッパリ。「チームの仕事をしつつ、求められることをしつつ、もっと自分のストロングを出していけたらと思う」とより高い基準を見つめていた。 キャリアの大半を点取り屋として過ごしてきた北川にとって、その展望は原点に立ち返る取り組みでもある。 「いろいろな経験をしてきて、海外での3年間は無駄じゃなかったと胸を張って言えるし、そこでも試合に出られないながらも自分との戦いで成長できている実感はあった。いろんなポジションをやったし、いろんなことをやってきたけど、それを全てポジティブに捉えられたからこそ今があると思う、去年もあまり試合に出られない悔しさがあったり、その中でも人間として大きく成長できたからやり続けられたと思う。でもだからこそ、もう一歩大きくなるために、ゴール前で仕事ができる選手になりたい。いまはいろいろとできる良さはあるけど、やっぱりペナルティエリアの中、ペナルティエリアの付近で仕事ができる力強いストライカーになっていかないといけないと思う。なんでもできるところは持ちつつ、もっともっとゴールにこだわっていければいければなと思います」 そうして思い描くような姿は、残り5試合で昇格権を掴み取り、3年ぶりに挑むJ1のステージで見せていくつもりだ。 「もうとにかく優勝、昇格するしかない。天皇杯で京都と試合をしたり、今日横浜FCと試合をしていてもそうだし、去年も浦和レッズとやって、J1のチームと試合をするとやっぱり楽しいんですよね。そのワクワク感はやらないと得られないものが大きかった。今年しっかり戦って、個人としてもチームとしても大きくなった上で、J1の舞台で戦いたい。だから残り5試合、状況はいろいろと変わると思うけど、まずは優勝して昇格したいです」 そのためにはまず、目先の5試合に全てを注ぐしかない。 次節は奇しくも昨季の最終節で引き分け、J1自動昇格を逃すことになった水戸とのアウェーゲーム。また昨季第40節で敗れた熊本との対戦も残しているなど、1年前の過ちを繰り返さないためのハードルが分かりやすく目の前に立ちはだかっている状況だと言える。「まずは次の試合が大事だと思う。次はアウェーで水戸なので、去年昇格を逃している場所でもあるし、自分がいつもどおりプレーできればなと思います」。紛れもなくここがキャリアの分岐点。数々の苦労を乗り越えてきた28歳は、一回りも二回りもたくましくなった姿で因縁の地に向かうつもりだ。