【視点】事故原因究明 政治絡めるな
米軍普天間飛行場の名護市辺野古移設工事で、土砂搬出が行われている同市の安和桟橋で起きた死傷事故を巡り、県議会土木環境委員会の野党は11日、事故当時の監視カメラ映像を確認した。辺野古移設に反対する与党「オール沖縄」勢力の県議らはこれに反発し、仲里全孝委員長の不信任動議を提出したが、否決された。 事故は今年6月28日、抗議活動中の女性が進行中のダンプカーに立ちふさがろうし、女性を制止しようとした警備員とともにダンプカーに衝突したというものだ。警備員は死亡し、女性は足を骨折する重傷を負った。 沖縄防衛局は8月、事故原因は工事の妨害行為にあるとして、道路管理者の県に対し、反対派へ妨害行為停止を明確に呼び掛けるよう要請した。出入り口のガードレール設置などの安全対策も要望した。 これに対し「オール沖縄」勢力は、移設工事を強行する防衛局の安全対策に問題があったと主張。県は「ガードレール設置は歩行者の自由な通行を妨げるため適切ではない」と、要請に応じない考えを示している。 事故原因を巡り国と辺野古移設反対派の意見が真っ向から対立している。この状況を打開し、国、県が共通認識を持って事故防止対策に当たるには、事故当日に何があったのか、事実関係を正確に把握する必要がある。 監視カメラの映像は最良の証拠になり得るはずだ。関係者への聞き取りは当然欠かせないが「百聞は一見にしかず」という言葉もある。映像の確認を拒む与党の対応には疑問しかない。 与党は県議会で映像を確認すべきでない理由として、負傷した女性が代理人を通じ、プライバシーの侵害などを理由に映像閲覧の中止を求める申し入れを行ったことを挙げた。与党県議からは「議論は映像を見なくてもできる」という発言もあった。 証拠を確認せずに何をどう議論するのか。辺野古移設反対という政治的動機が絡み、本来科学的であるべき事故原因の調査をゆがめているとしか思えない。 プライバシー権を主張する女性の感情は、ある程度理解できる。だが人命が失われた事故の重大性を鑑みれば、証拠にふたをするような行為は、一般県民の理解を得られないのではないか。 反対派は、抗議者が牛歩で道路を渡り終わったのを警備側が確認し、1台ずつダンプを出すという「暗黙の了解」があったとする。その「暗黙の了解」に反し、ダンプが2台連続して発進したことが事故原因で、背景には工事を無理に急がせる防衛局の意向があったと非難する。沖縄主要メディアの報道も、反対派の主張に沿った内容だ。 県議会一般質問で事故を取り上げた自民党の島袋大県議は、死亡した警備員遺族の手記を紹介。「報道やSNSでは、非があるのは強引な警備ではないかという誹謗中傷がほとんど。家族の死がなかったかのようで精神的に辛い」と心情を語っていると明かした。負傷した女性を英雄視するような報道に遺族は「今までで一番憤りを感じる記事」と訴えたという。 「暗黙の了解」をルールと呼んでいい状況が、果たして現場に存在したのか。一方的な決めつけの前に、映像を確認するのは当然だ。 与党が映像の確認を拒むのは、映像を見られると何か都合が悪いことがあるのではという疑念も生む。与党や反対派のためにもならないだろう。