「防犯カメラに写っていても逮捕は難しい」。被害届を受け渋る警官…提示された書面に小売業の女性は目を疑った
鹿児島県警は現職警察官らの不祥事が相次ぎ、その後の対応も県民が納得できるものとは言えず、信頼を失った。野川明輝前本部長による隠蔽(いんぺい)疑惑まで浮上し、組織そのものに不信の目が向けられている。一連の不祥事は、メディア捜索の是非や公益通報の適否、公安委員会制度の課題などさまざまな論点も浮き彫りにした。(連載「検証・鹿児島県警第1部~欠けた県民感覚④」より) 「バレなければ…」。現職警官による性犯罪はなぜ、止まらない。見え隠れする特権意識…前本部長の発言も批判を増幅した
鹿児島県警は8月2日、一連の不祥事を受けた再発防止策を公表した。A4判23ページで、「職責の自覚と高い職務倫理の養成」「県民への誠実な姿勢」など4項目を柱に据えている。「幹部の指揮統率能力の強化」や「人事交流活性化」など、人材育成に力点が置かれている特徴がある。 同8日、県内27署の署長らを集めた県下警察署長等臨時会議で、野川明輝前本部長は「組織も人も自分中心の考えがあった。思いを一つにして、県民の期待に応えられる職場にしたい」と呼びかけた。 これ以降も「県民に『県警は変わった』と思ってもらえるよう全力を尽くす」「警察が信じるに値する組織であると思ってもらえるよう取り組み続け、県民の疑念払拭につなげたい」と強調した。 ■ □ ■ 「テレビで見るような、市民に寄り添う警察の姿はなかった」。県内で小売業を営む50代女性は、怒りと落胆を覚えている。7月上旬、店頭に掲げたのぼり旗を盗まれる被害に遭った時の出来事だ。
警察に電話すると「被害届を出すか」と問われた。「出せるのであれば」と伝えると1人の男性警察官が来た。「屋号の記載がない旗は見つかりにくい」「防犯カメラに写っていても逮捕は難しい」。解決に消極的な発言が相次ぎ、女性は被害届を諦めた。 しかし、警察官がサインを求めてきた書面に目を疑った。「(のぼり旗は)高価ではないため被害届は出さない」 なぜ話してもいないことが書かれているのか-。窃盗のショックに追い打ちをかけられたという。「日々多くの事件を扱う警察にとっては、アリのように小さな事かもしれない。それでも寄り添ってもらえないのが悲しい」 この頃、県警は警察庁の特別監察が入り、指導を受けながら再発防止策の策定を進めているさなか。「期待できる警察に本当に変わるのか。警察を頼らない訳にもいかない」と悔しさをにじませる。 ■ □ ■ 再発防止策を読み解くと、警察職員自身も組織の実情を危惧している様子が見て取れる。「組織の気が緩み、慣れや特権意識のようなものに陥っている」「部門を超えた連携が希薄」など若手から幹部までの声を記載している。
他方では、県議会などから「外部の目が入っていない」「達成期限が示されていない」などの指摘が上がった。県警は全ての項目に着手しているとして、年内に取り組み状況を公表する方針だ。 10月末、警察庁はそれを待たずに本部長の交代を決めた。11月1日の離任会見で、野川前本部長はこう述べた。「再発防止策は本部長が交代しても機能するものと自負している。当事者として関わった熱量を後任に伝えたい。時間はかかるかもしれないが、見守ってほしい」
南日本新聞 | 鹿児島