『クワイエット・プレイス:DAY 1』はホラー度低め? 終活ロードムービーとしての味わい
ルピタ・ニョンゴとジョセフ・クインの演技に心から拍手を
閑話休題。そんなわけでモンスター映画としての魅力は弱く感じたが、一方で変形のロードムービーとしては非常に楽しむことができた。「最後にピザを食べたい」という小さな願いのために命を張るのがイイ。世界の終末だからこそ、小さな願いは力強く輝く。ベタではあるが、怖がりなエリックがサミラのために勇気を振り絞って単独行動に出るところもいい。さらに旅路の果てに待つ2人だけの時間は、完全にこれがSFホラー映画であることを忘れさせるような、暖かく、ユーモラスで、それでいて哀しいシーンで素晴らしかった。この映画は音を出したら死ぬので、強制サイレント映画的な側面がある。台詞がないにもかかわらず、あのシーンを演じ切ったルピタ・ニョンゴとジョセフ・クインの演技には、心から拍手を送りたい。そして「あっ」と声が出てしまう結末の付け方も、私はけっこう好きである。 ホラー映画やモンスター映画としては、かなりいびつな形をしている『クワイエット・プレイス: DAY1』。シンプルに「怖いですか?」と聞かれたら、「そこまで怖くはない」というのが正直なところだ。しかし「どうせ死ぬなら、せめてちょっとくらいワガママ言って、好きなことしてから死にたいじゃないの」というコンセプトの終活ロードムービーとして、本作には奇妙な味わいがある。これから数年後、シリーズを振り返るときに「けっこう好きよ」「実は一番好きかも」という感じの愛され方をしていくであろう1本だ。
加藤よしき