聞き取れないほどの「がらがら声」が元通りに!?声帯を再生させる「魔法」のタンパク質 彗星のごとく現れるか、日本発創薬ベンチャー
当時のクリングルファーマは社長と総務担当の社員1人のみで、海の物とも山の物ともつかない状態だったという。それでも飛び込んだのは「HGFの可能性に引かれた」からだ。安達氏は「もともと体内にある物質を使って、体に足りないものを補うというコンセプトはシンプルだ。膵臓から分泌されるインスリンは糖尿病の治療薬になって100年になる。HGFを100年後でも使われる難病の医薬品にしたい」と説明する。 ▽脊髄損傷治療でも臨床試験が最終段階、「ゲームチェンジャー」目指す HGFによる治療の可能性は、声帯はんこんにとどまらない。脊髄損傷によって手足のまひなどが生じた患者にも改善効果が見込まれている。脊髄損傷の原因は運動中の事故や交通事故だけでなく、近年は高齢者が庭木の剪定中にはしごから落ちたり、路上で転んだりして起きるケースが増えている。日本脊椎脊髄病学会によると、脊髄損傷の国内の新規患者数は年間5千人以上とされる。 クリングルファーマは脊髄損傷の直後に当たる「急性期」の患者に対するHGFの臨床試験も進めている。2020年7月に開始した第3相試験は、2023年10月に終了予定だ。安達氏によると、これまでの臨床試験では、最も重症の完全まひ状態だった患者がHGFを投与した後、指や下半身を少し動かせるようになるといった改善効果が得られたとしている。
新型コロナウイルス禍では、バイオベンチャーの米モデルナやドイツのビオンテックが「メッセンジャーRNA(mRNA)」という遺伝物質を使う技術でワクチンを開発し、業界を大きく変える「ゲームチェンジャー」として一躍脚光を浴びた。安達氏はモデルナやビオンテックの成功を例に挙げ「HGFの技術で一点突破し、必ずやり切る」と力を込めた。