聞き取れないほどの「がらがら声」が元通りに!?声帯を再生させる「魔法」のタンパク質 彗星のごとく現れるか、日本発創薬ベンチャー
臨床試験に携わる京都府立医科大の平野滋教授によると、声帯はんこんは発症の原因がはっきりしないが、声の出し過ぎで声帯が炎症した場合や声帯の手術をした後に起きやすい。職業的に声帯を酷使する歌手や教師、政治家といった人がかかるケースが多い。日本喉頭科学会の調査によると、国内の新規患者数は年間300人前後と推定される。重症になると、聞き取れないほど声ががらがらになったり、かすれたりして日常会話にも支障を来すという。 クリングルファーマの臨床試験に参加した歌手の男性は軽症で日常会話に問題はなかったが、高い声が出にくくなり、プロとしての活動ができなくなっていた。臨床試験では声帯の粘膜内に局所注射でHGFを複数回に分けて投与。その結果、男性は硬化して振動しなくなっていた声帯がほぼ元通りになり、歌唱力を取り戻したという。臨床試験を終えてから10年近くたつ現在、男性の近況は分からないが、平野教授は「連絡がないのは元気な証拠かも」と言う。
これまでの臨床試験でHGF投与による改善効果が認められたのは2人に1人だった。その評価について、平野教授は「ステロイドなどを注入してもほぼお手上げだったことを考えると意義がある。軽症なら改善がかなり期待できる」と話す。 臨床試験の最終段階に当たる第3相試験は2022年11月に始まり、2025年の後半に終了予定だ。平野教授は「重症患者でどの程度の改善効果が得られるかが焦点だ」と指摘している。 ▽米ベンチャーで知ったビジネスの面白さ、白衣を脱ぎ帰国 クリングルファーマ社長の安達氏は1996年に米国に渡り、いわゆる「ポスドク」の博士研究員として、カビが稲に引き起こす「いもち病」の研究に従事。1999年に米バイオベンチャーに研究員として入社した。そこでは日本人が自分しかいなかったため、日本企業との交渉に通訳のような形で参加するようになり、基礎研究をビジネスへと橋渡しする面白さを知った。 白衣を脱ぐ決断をして帰国。三井物産のシンクタンクである三井物産戦略研究所で勤務していた際、戦略研究所が間接的に投資していたクリングルファーマと出合い、2004年に入社した。安達氏は「メディカルのバックグラウンドはなかったが、サイエンス、英語、ビジネスに対応できる人物を求めていた当時の社長の誘いに応じた」と振り返る。