『マツモト建築芸術祭 2024 ANNEX』レポ。松本城敷地内〈旧松本市立博物館〉で失われゆく建築をアートが寿ぐ。
重要文化財でもある鎌倉時代の打楽器の一種「孔雀文磬(くじゃくもんけい)」をはじめ、今も松本市内で見られる「七夕人形」、生活に欠かせない農耕用具など、約11万点を超える収蔵品を誇っていたこの博物館。少し前まではそうしたものが並んでいた室内に今展示されているのは、半分石化したような文房具など……。既製品と石を組み合わせた彫刻を制作する村松英俊の作品だ。
では次に地下へ。 解体間際ということもあってか、普段は入ることができない部屋や展示空間ではなかったところにまで作品が展開されていて、探検気分が盛りあがる。階段を降りてたどり着いた先の薄暗い空間は、関係者以外立ち入り禁止だったボイラー室が。……しかも怪しくまばゆく光輝いている。
懐かしさを感じさせる ”昭和感” あふれるインテリアの細部や、何かが存在していた跡のようなノイズに、あえて目が行くように設置された作品もあり、”建築芸術祭” の名にふさわしい、ハコ物に対する深い眼差しが感じられる。
「このような、モダニズムをコンクリートで体現していた時代の建物が、またひとつ消えてしまうことには悲しさを感じますね」と話すのは、建築家でもあり作家でもある板坂さんだ。「だから建物が良く見えるような展示の仕方を工夫したい」と、2階の廊下部分にレジンでつくった風船の作品を展示している。
今は1つのみだが、会期中徐々に風船の数が増えていくそうで、「今ではほとんど見られないようなデザインの送風口とか、この建物らしい細部に目がいくように、展示位置を工夫するつもりです」と板坂さん。かように、参加作家は建物自体の良さに加え、ここで展示・考察されてきたこの地域の文化の気配を敏感にキャッチして、わたしたち観客にも気づきのきっかけを与えてくれる。 作品と建築の呼応に耳と目を傾けるという、この芸術祭ならではの楽しみ方をしっかり味わい、失われゆく建築に思いを馳せたい。
そうそう、〈旧松本市博物館〉を出たら、目の前にそびえる名建築たる〈松本城〉もぜひ訪れてほしい。芸術祭での体験が、400年以上前からあり続けるこの国宝の見え方を、豊かに変えてくれるかもしれない。 会期中、松本市大手三丁目に移転オープンした新しい〈松本市立博物館〉と複合ビル〈信毎メディアガーデン〉でも、短編映画ショートショートの上映や各種イベントが行われるので、詳細は公式サイトでチェックを。
『マツモト建築芸術祭 2024 ANNEX 消えゆく名建築 アートが住み着き 記憶する』
~2024年3月24日。メイン会場:〈旧松本市立博物館〉長野県松本市丸の内4番1号。入場料(メイン会場):一般2,000円ほか。総合ディレクター:おおうちおさむ。参加アーティスト(17組):磯谷博史、板坂諭、宇佐美雅浩、河合政之、カンディダ・ヘーファー、鬼頭健吾、熊野寿哉、白鳥真太郎、須田悦弘、五月女哲平、中島崇、藤井フミヤ、谷敷謙、村松英俊、マウス・オン・ザ・キーズ、SHORTSHORTS、米谷健 + ジュリア。
photo_Shiho Furumaya text_Toshie Oowa editor_Keiko Kusano