「アスリートは社会でも役に立つ」 Wリーグが考える、アスリートの本当の価値<前編>
どのアスリートにとっても、いわゆるセカンドキャリアについて考えることは避けて通れない。選手として第一線でプレーできる期間は限られており、その後の人生のほうが長いからだ。認知度が向上の一途をたどる日本バスケットボール界も、今後はその問題が大きくクローズアップされることになっていくだろう。東京オリンピック銀メダル以降注目を浴びている女子バスケットは、その課題とどう向き合っているのか。Wリーグ・長崎俊也事務局長と有明葵衣理事に話を伺うと、アスリートだからこそ得られる経験や価値について、考えさせられるところが非常に多い。 取材=吉川哲彦 撮影=野口岳彦
■アスリートには、真面目に努力する才能がある
Wリーグは2023年より、「Wリーグアカデミー」と称した所属選手向けのウェビナーを定期的に開催。識者を招き、お金の話やスキンケアなど様々な知識をオンライン講義で学ぶというものだ。これまでの6回の講義の中には、競技人生も含めたライフプランについて学ぶ回もあった。アカデミー開催の背景には、かつて同リーグ・新潟アルビレックスBBラビッツの創設で主導的役割を果たした長崎事務局長の経験がある。 「新潟のチームを作る時に、休部した日本航空JALラビッツの選手たちを引き受けたんですが、新潟ではバスケットとは別の仕事でサラリーを稼いでもらわないといけなかったんです。そこで、学生時代からバスケットしかやってこなかった選手たちと、企業が欲しい人材のミスマッチがどうしても起きてしまうんですが、それまでコツコツ努力してきたアスリートというのは、新しい仕事を始めることになっても、教えてあげれば真面目に仕事する。それは、新潟の選手たちが証明してくれました。 トップリーグは競技力強化に振り切ってしまうところがありますが、選手がプレーするほんのわずかな時間も、物事を吸収する上では貴重な時間。当時の新潟は最下位ではなかったし、プレーオフに出たこともありますから、要はやり方なのではないか。それに、仕事とアスリートのデュアルキャリアが何かの役に立つのであれば、そうあるべきだろうと思ったわけです。我々がやりたいのは、プレーヤーを作るのではなく、人を作るということ。Wリーグには名だたる企業が参戦してくれているのに、そこにいる選手がバスケットしかしないというのももったいないと思うんです」(長崎)