”あの場面”への疑問と13話にもアンサー!『ガールズバンドクライ』仕掛け人の告白
『ガールズバンドクライ』は音楽と青春をテーマにしたガールズロックアニメだ。’24年4月~6月までの春期にTOKYO MX等で地上波放送された他、現在もAmazonやABEMA等、さまざまなプラットフォームで配信されている。 【画像】泣ける…ガールズバンドの多様性が現れた名シーン 【凄腕バンドガールたちが声優にも挑戦!ガチアニメ『ガールズバンドクライ』仕掛け人の告白:前編】では、このプロジェクトを推進した中心人物である東映アニメーションのプロデューサー・平山理志氏に『ガールズバンドクライ』が生み出されるまでのプロセスを聞いた。後編ではファンの考察に対するアンサーや続編について、続けて平山氏に深掘りしていく。 ――本作では前例のないさまざまな試みに挑戦しています。受け入れられるかどうか、テレビアニメの放送が始まるまでの心境はいかがでしたか。 「非常に怖かったです。 5年間頑張って作ってきましたが、お客様に否定される可能性も十分あったので」 ――正直、放送前は肯定的な反応は多くなかったという印象があります。 「まず作品のルック、つまり見た目が受け入れてもらえるのかどうかが、分からなかった。主人公の井芹仁菜がどう受け入れられるのか? というのも予測できませんでした」 ――まっすぐで純粋ながらトゲがあり、一度決めたことは譲らない尖ったヒロインです。 「受け入れてくれる人とそうじゃない人が分かれる可能性があるな、と思っていましたが、愛されているようでホッとしています」 ――最初に手応えを感じたのはいつですか? 「出来上がったものは、まず社内で試写をやるのですが、それがほぼ毎回満員だったんですよ。これは異例なこと。たいていは満員にならないし、回数を重ねるごとに人が減っていくものなのです。それが『ガールズバンドクライ』は何度試写をしても満員でした。試写を見た社内の人間が自席に戻って〝面白かった〟って口コミで広めてくれないと起きない現象なんです。この作品は面白いんだ、と少し自信が持てましたね。ただ、社内試写を見る人間は皆、アニメのプロフェッショナル。一般のお客様とはまた違う感覚を持っているので、実際に放送されるまでは分からないな……とも思っていましたが。 今年の春期は競合タイトルが目白押しだったことも不安でした。『鬼滅の刃』『怪獣8号』といった、人気原作のある注目作がたくさんあった。少女+音楽もので言えば、放映前から話題を呼んでいた『夜のクラゲは泳げない』や『ガールズバンドクライ』と同じ花田十輝さん脚本の『響け!ユーフォニアム』の第3シーズンもあった。『そんな状況でCGアニメのオリジナル作品なんて注目されないだろうなあ、人気作と話題作を見るので精一杯だろうなぁ』と心配していました」 ――『夜のクラゲは泳げない』は音楽がテーマで、かつてプロでありながら、一度舞台から降りたメンター的な女性と、居場所を探す主人公との出会いから物語が始まります。『ガールズバンドクライ』と共通点の多いこの作品が同じタイミングで放送されたのは驚きでした。『ガルクラ』『ヨルクラ』と愛称も似ています。 「全くの偶然で、僕らも本当に驚きました(笑)。『夜のクラゲは泳げない』は、ミュージックビデオを作っていくという物語で、バンドものである『ガールズバンドクライ』とアプローチは違うのですが、僕たちとすごく近い感覚で作っているのでは? という共感のようなものがありました。お客様にはヨルクラ、ガルクラと比較していただいて盛り上がっていけばいいなと思っていました。実際、お客様が比較してくれたのはありがたかったです。そこから『ヨルクラ』のファンが『ガルクラ』を知ってくださることも多く『夜のクラゲは泳げない』にはすごく感謝しています」 ――プロデュースを行う上での意気込みとして、ご自分の過去作を超えよう、というものはありましたか? 「いえ、全てがゼロベースで考えていました。例えば『ラブライブ!』にしてもテレビアニメ放送が始まったのは今から10年以上前で、そこから世の中は随分変わったので、今の時代に合わせたものを作らないといけない。そのために必要な立ち上げ方をしなければならない、としか思っていませんでした。ですから、他の作品のことは考えていなかったというのが正直なところです。お客様に今、きちんと受け入れてもらえる作品はどういうものなんだろう? というところから考え始めました」 ――正直、よくこの企画が通ったな……と思います。 「企画を通すのは大変でした(笑)。ですが、東映アニメーションの社風として、オリジナルをやろう、という考えがあるのと、ちょうど’19年にオリジナルを作ろうという方向性があり、会社からすごく応援していただいたのは大きかったです。東映アニメーションは実験的な企画をやらせてもらえるところで、普通なら、あるいは複数の会社が参加する製作委員会方式だったら、さまざまな意見を調整しなければならなくなるという点で、こんなに予算がかかる、前例のない発想の作品はやれていないです。東映アニメーションという会社に金銭的にも、人員的にもちゃんとした体制がある上で、あたらしいものを作ろうという気概があったからできたことで、さまざまな苦労を乗り越えて放送にこぎつけられました」 ――CGの技術開発に多大な予算がかかり、主人公たちのオーディションにも数年かけたと伺っています。長い製作期間の中で、予算が減っていくプレッシャーはどんなものでしたか? 「プロデューサーの仕事の基本として、予算とのバランスを考える、というものがあります。予算がかかったら、この金額をどうやって回収するのか? 回収するためには、すべてのクオリティを上げていくしかない、と考えていました。全てのクオリティを上げて、そのどこか一つでも評価していただければ、そこから予算を回収していけると信じていたので妥協ができませんでした。とはいえ、刻々と積みあがる製作費を見ているのは本当に怖かったです」 ――ここからはファンが気になっているだろう、細かいところを伺いたいのですが、第11話で『空白とカタルシス』をトゲナシトゲアリが演奏する中、5人の過去がフラッシュバックし、関係者の姿が描き出されていきます、そのルパさんの過去パートで、墓に向かい合っている女性はルパの姉ではないか、などとファンは考察していますが……あれは本人ですか? 「はいそうです、ルパ本人です」 ――エンディングに1話の時点では未登場のキャラがいて、その意味が分かりませんでしたが、13話が終了した時点で、ファンの間では「これは13話以降の皆を描いていたのでは?」という推測が広がっています。 「そのつもりです。13話の後も、みんな仲良くやっているんだろうな、という」 ――12話終わりから最終話である13話にかけて、衝撃的な展開が続きます。未見の方にネタバレにならないように言えば、主人公たちに試練が続くわけです。これについてはどういう考えがあったのでしょう? 「僕らは地に足のついた話を作りたいと考えていました。ですから、全てを達成してしまうと、嘘になってしまうと思いました。でもあのライブに来てくださったお客さんとは一体感があり、これまで頑張ってきたトゲナシトゲアリというバンドが評価されて、あの場に立てている。バンドがこれまでやってきたことをお客様に認められて跳ねるその瞬間を表現したかったんです。勝負した結果どうなるかは分かっている、でも勝負を避ける選択肢はない。そして結果は出るわけですが、でも今までやってきたことに意味がなかったわけではない。そういうことを言いたかったんです。 トゲナシトゲアリのライブには、各話でトゲナシトゲアリのメンバーに関わった人々が集まってきます。キョーコさんのような名前のあるキャラクターから、いわゆるモブといわれる人々もライブに来ていて、これは酒井監督がこだわりとして、仁菜たちがやってきたことが間違ってなかったんだ、ということを結果として見せたかったのだと思います」 ――今後の展開はどうなりますか? 「トゲナシトゲアリというバンドの活動は続きます。先もいろいろ考えておりますが、まだ時間がかかりますのでお待ち下さい。13話までのお話は終わりましたが、各種配信は続いておりますので、未見の方はぜひ。トゲナシトゲアリのバンド活動は続きますし、魂を熱くするロックの物語『ガールズバンドクライ』は続きますので、これからも応援のほど、よろしくお願いします!」
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