意外にも初対面の「養老孟司」と「田原総一朗」が語り合ったら? 2人の対談本を立川談四楼が語る(レビュー)
養老孟司氏(86)に対談本を作る話が持ち込まれた。希望する相手は? に養老氏は「同年代の人」と答え、伝え聞いた田原総一朗氏(90)に白羽の矢が立ち、この対談は実現した。 互いの活躍は知っているものの初対面である。テーマも決まっていない。それは養老氏の「お会いしてみたら、『朝まで生テレビ!』(テレビ朝日系)で見るのと同じ人でした」で始まった。この一言が両者の距離を一気に縮めたのは明らかだ。 田原氏の「なんで医者になったの?」に養老氏がこう答える。「田原さんも僕も戦争を知っている世代なので、敗戦を境に世の中の価値観がガラリと変わるということを体験していますよね。戦争で変わるような仕事は嫌だと思ったんです」と。 若き日、田原氏は小説家志望であった。「石原慎太郎の『太陽の季節』を読んで打ちのめされました。(中略)同じ頃に出た大江健三郎の『死者の奢り』にも衝撃を受けた。石原慎太郎は2歳上、大江健三郎は1歳下。自分はとても敵わないと思い、小説家を諦めました」 初対面とは思えない談論風発ぶりで、前述の告白のようなものもあり、話題は多岐に及び、ページをめくる手が止まらない。 愛煙家の養老氏から「タバコを吸うのも容易じゃない」と愚痴も出る。すかさず田原氏がフォローする。高齢者医療が専門の和田秀樹さんから聞いた話として「和田さんは80歳を過ぎてからの禁煙は意味がないと言っていましたね。むしろ、無理に禁煙してイライラしたり、ふさぎ込んだりするほうが問題だと」。 その田原氏は酒もタバコもやらない。その代わり、「甘いものはよく食べます。饅頭とか最中とか」これはやめませんと言い、こう続ける。 「だから養老さんが、タバコは体に悪いと言われても好きだからやめない、その気持ちはわかりますよ」 親しくなりつつも、両者気を遣っていて、読後感のいい対談です。 [レビュアー]立川談四楼(落語家) 協力:新潮社 新潮社 週刊新潮 Book Bang編集部 新潮社
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