2年連続マイナス成長の見通しで「欧州の病人」に逆戻りしたドイツ ロシアのエネルギー、中国市場に頼った成長モデルが仇に
インフラ老朽化でも予算不足
構造改革が喫緊の課題だが、ドイツ経済にはさらに深刻なアキレス腱がある。 南ドイツ新聞(10月29日付)の取材に応じた国際通貨基金(IMF)のカマー欧州局長は、景気後退を克服するため、ドイツ政府は先進国の中で最も低い水準にある公共インフラへの投資を拡大すべきとの認識を示した。 日本と同様、ドイツでもインフラの老朽化が深刻化している。ドイツ東部のドレスデン中心部では9月11日、エルベ川にかかるカローラ橋の一部が崩落した。ドイツ政府は、今後10年間で約4000の橋の修繕などが必要としている。 老朽化しているのは橋だけではない。ドイツ政府が2021~2022年に実施した調査では、高速道路全体の約半分(7100キロメートル以上)、鉄道網全体の4分の1超(1万7000キロメートル以上)で修繕が必要なことが明らかになった。 インフラ改修には多額の予算が必要となるが、憲法の規定が大きな足かせとなっている。ドイツ基本法(憲法)では、政府が毎年新たに増やせる債務が「名目GDPの0.35%まで」と規定されている(債務ブレーキ)からだ。このため、インフラ改修に必要な資金を調達できない状況が続いているのだが、事態が今後、好転する可能性は低いと言わざるを得ない。 リントナー財務相は10月24日、来年度予算の財源不足が120億ユーロから135億ユーロ(約2兆2275億円)へ拡大すると危機感を露わにした。リントナー財務相は財政規律を重んじる自由民主党(FDP)に所属している。インフラ改修のための予算増額などもってのほかだろう。
政局は一気に流動化…米国のような混乱も?
財政の問題は連立政権の運営にも暗い影を投げかけている。 緊縮財政を主張するFDPと、財政支出に前向きなショルツ首相率いる社会民主党(SPD)との間にはもともと意見の相違があり、10月29日、ショルツ氏が労働組合や経済界の重鎮を集めて「産業サミット」を開いたことで一気に表面化した。招待されなかったFDPが猛反発し、政権離脱の可能性も取り沙汰されている。 複数のドイツメディアは「来年9月に予定されている連邦議会選挙が来年3月9日に前倒しで実施される可能性がある」と報じており、政局は一気に流動化している。 ドイツ経済は移民の大量流入のおかげで高い成長率を誇ってきた。経済協力開発機構(OECD)のデータによれば、移民人口の比率は16.7%と米国(13.8%)や英国(14.3%)を上回っている。 だが、不景気になれば、移民への風当たりが強くなるのは世の常だ。移民に対して多額の社会保障費が投入される一方、各地で彼らの犯罪が多発する状況により、ドイツ国民の怒りは高まるばかりだ。 連邦議会選挙が実施されれば、移民排斥を求める極右政党「AfD(ドイツのための選択肢)」が躍進を遂げるのは間違いないだろう。 米国と同様、ドイツ政治も混迷の度を深めてしまうのではないだろうか。 藤和彦 経済産業研究所コンサルティングフェロー。経歴は1960年名古屋生まれ、1984年通商産業省(現・経済産業省)入省、2003年から内閣官房に出向(内閣情報調査室内閣情報分析官)。 デイリー新潮編集部
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