イチロー、愛工大名電時代の目覚ましは「“ピ”で止めなきゃいけない」 午前2時起床の寮生活で築いた“世界のイチロー”の礎【独占密着】
「見えるものしか評価しないというのは危険」
何気ない会話が心地よい。けれど、野球の頂点を知る二人だからこそ、話せることもある。 松井:今のメジャーの試合見てそれこそストレスたまらないですか? イチロー:たまるたまる、めちゃめちゃたまるよ。 松井:ですよね。 イチロー:退屈な野球よ。 松井:打順の意味とかそういうのは薄れちゃっていますよね。 イチロー:それぞれの役割みたいなことが全くないもんね。 イチローや松井が活躍した2000年代初頭から、 メジャーリーグの野球は大きく変わり始めた。きっかけの一つは、「セイバーメトリクス」。野球における統計学の活用だ。あらゆる指標でデータを集め、分析。「バントは有効か?」「初球は見逃すべきか?」など選手のプレーを、統計的に判断する手法だ。さらに2015年から、「スタットキャスト」と呼ばれるシステムを本格的に導入する。レーダーの軍事技術を転用し、ボールの回転数や、打球角度、守備の選手が走った距離などあらゆる動きを計測できるようになった。今では、数値はクラウド上に集められ、リアルタイムで、放送局やチームに提供される。結果、データが示す最適解に従わない選手は、評価を減点されるようにもなった。 イチロー:勉強ができる人たちを入れちゃって。 松井:野球がそっちに支配されちゃっていますからね、今は。 イチロー:目で見える情報がインプットされて、「そうなのか」ってある意味では洗脳されてしまっているよね。選手の気持ち、メンタルとか、そういうものがデータにも反映されないわけだけど、それを一色担にしてしまうので。目で見えないことで大事なこと、いっぱいあるのになって。でも、みんなそれやるから、そこの勝負になっちゃっているからね。昔、日米野球で来た選手たちが「そんなフォームで打つの!?」っていう個性があるように見えたから、長いものに巻かれるという文化は日本にはあるじゃない。でも、アメリカは個人を尊重する文化なのかなと思ったら、みんな巻かれていくんだよね。みんな同じ野球やるじゃない?危ないよね。この流れは。怖いのは日本は何年か遅れでそれを追っていくので。それまた怖い。 記者:失ってしまうものがあるとしたら何が失われてしまう? イチロー:感性ですよ。目で見えてるものしか信じられなくなるから。何マイル以上なら何パーセントの割合でヒットが出る。何マイル以下ならこうなる。さらに下ならこうなる。そうじゃない技術がある。とにかく見えるものしか評価しないというのは危険ですね。 自分の頭で考える野球を守りたい。今、イチローは、高校生への指導に力を入れている。