士業専門コンサルタントが教える「プロ士業」の定義。(横須賀輝尚 経営者)
■「プロ士業」は取り扱う業務範囲を気にしない。
どの士業にどんな業務を頼めるか。これも案外知られていないものです。裁判なら弁護士、税金なら税理士…くらいは知られていたとしても、細かいそれぞれの専門分野はなんとなくしか知らないという人がほとんどでしょう。結論から言えば、これらについてあなたが学ぶ必要はありません。どんな士業にどんな内容の相談をしても構わないのです。 もちろん、それぞれの業法と呼ばれる法律があります。税務相談は税理士。登記なら司法書士とそれぞれの分野があり、原則として業法に定められた範囲でしか相談ができないことになっています。ですから、会社をつくって事業を興したい…と税理士に相談にいっても、「会社設立登記は司法書士ですから、司法書士に相談してください」と言われることもしばしば。ただ、ここでも士業とプロ士業の差が出ます。 プロなら、「ハブ」機能を持っていなければなりません。どのようなジャンルの相談が来ても、自分ができることは自分で対応。そのほか、自分の資格で対応できない業務については、自身の士業ネットワークですべて紹介等で対応する。そういう体制を取るのが最低限のプロ士業です。ですから、あなたは誰に何をと考えることなく、まずは士業と名のつく事務所に相談をすればいい。 このとき、「資格が違うので対応不可能です」とだけ返ってくれば、それは単なる士業(というか、士業以下)。きちんと整理整頓して体制をつくってくれるのであれば、最低限のプロ士業の役割を果たしてくれているといえます。突き返された士業には、相談も依頼もしなければいいわけで、最初から除外することができる。そういう見方もできます。 すなわち、プロ士業とはある種のゼネラリストでなければならない。そう捉えてもらうのが正解です。例えば、会社を作りたいと司法書士の事務所に相談に行く。間違いなく、登記はできるでしょう。ところが、ただ登記だけを専門にしている司法書士だと、このあと税金のアドバイスがありません。 法人を設立した場合で、青色申告で決算申告しようと考えていたら(というか、普通は青色申告でやります。控除があるので)、原則として会社設立の日から3ヶ月以内に青色申告承認申請の手続きを取る必要があります。間に合わなければ、当然白色申告となり、控除は受けられません。登記だけでなく、税務にもある程度精通している司法書士ならば、必ずこの点に触れます。 つまり、それぞれの資格の専門家というだけでは、プロとは呼べないのです。もちろん、依頼はこなしているわけなので、この場合の司法書士に責任があるとも強く言い切れず、ミスなのかどうかも判断が難しいところですが、依頼者に起きる損害は大きく、実質的にはゼネラリストでない士業の行為は重罪だといえるでしょう。 実際、この手のミスは多いものです(もう、ミスと言います)。ほかにも会社設立時は、新しいサービスを手掛けるなら商標や特許についても確認する必要がありますし、プロとして気づかなければならない点は潜在的に多くあります。ですから、ゼネラリストであることもプロ士業の要件といえますし、別の言い方をすれば、「気が利かない」といけないわけです。 「ぞれぞれ、法定の相談範囲があるのであれば、別の分野のアドバイスは違法なのでは?」という意見もありますが、そのあたりは別の士業を紹介するなりやり方はいくらでもあります。あんまり深いことまで書けないのですが、違法なことをする士業は論外として、気が利かない士業に仕事を頼むべきではない。ここまでいえば、わかりますよね? そもそも、これだけ国家資格が専門分野ごとに分かれているのは日本くらいのもの。諸外国のほとんどは、弁護士と会計士くらい。これは日本特有の問題なのかもしれませんね。 横須賀輝尚 パワーコンテンツジャパン株式会社 代表取締役/特定行政書士
【プロフィール】
1979年、埼玉県行田市生まれ。専修大学法学部在学中に行政書士資格に合格。2003年、23歳で行政書士事務所を開設・独立。2007年、士業向けの経営スクール『経営天才塾』(現:LEGAL BACKS)をスタートさせ創設以来全国のべ2,000人以上が参加。著書に『プロが教える潰れる会社のシグナル』(さくら舎)、『会社を救うプロ士業 会社を潰すダメ士業』(さくら舎)、『資格起業家になる! 成功する「超高収益ビジネスモデル」のつくり方』(日本実業出版社)、『お母さん、明日からぼくの会社はなくなります』(角川フォレスタ)、他多数。