毎日・日経・読売の元政治部長が語る、気になる女性政治家の実力と個性
上川氏の評価は二分?
伊藤》外圧で思い出したのは、ラーム・エマニュエル駐日アメリカ大使が上川さんを非常に高く評価していたことです。「あれほど戦略的な思考ができる政治家は他にいない」とまで言い、エマニュエル大使が広告塔となって各国大使の間で「上川人気」が高まるのを目にしました。 佐藤》外務大臣になってからですか。 伊藤》なる前です。そうこうしているうちに麻生太郎副総理が「上川はいい」と言い出した。おそらく大使らの評判を聞きつけ、後見人のようなスタンスを取り始めたのだと思います。 上川さんは議員連盟(議連)で事務局長を多く務めてきました。マネージメントから具体的な政策の中身まで詰める事務局長をいくつこなしているかは、政治家の力量を測るバロメーターです。 また、法務大臣として麻原彰晃こと松本智津夫死刑囚らオウム真理教元幹部の死刑を執行した胆力も、今の評価の背景にあります。 佐藤》ただ、外務省を取材すると、上川さんの評価は分かれますね。公務を一生懸命にこなす「真面目な仕事師」といった評判がある一方で、真面目さゆえにいろいろな質問をするので、打ち合わせが長くなる、という声も。外務省は地域ごとに局が分かれていますが、それを横断する質問をされることも多く、「控えてほしい」と言う官僚もいれば、従来とは異なる「戦略的な思考」と受け止める人もいます。
総理としての能力はあるか
吉野》政治家の風評は、永田町を取材する記者や、霞が関の官僚の評価にも影響されます。特に官僚は政治家と仕事をする中で、「この政治家は総理大臣たりうる能力があるか」という見方を自然としています。真面目で優秀であるにこしたことはありませんが、日本では優秀といえば、暗記型の人物が想起されます。 しかし、さまざまな問題の所在を把握し、その問題に取り組む優先順位を決めなければならない政治家の仕事は、暗記型だけでは対応できません。 霞が関の官僚の間で、上川さんへの評価は必ずしも高くありません。「なんでこんなことにこだわるのだろう」と違和感を抱いたとの声をよく聞きます。「政治家として大局を判断できるのだろうか」という疑問があるようです。 佐藤》今年1月に麻生さんが、講演で上川さんについて「このおばさんやるねえ。そんなに美しい方とは言わんけれども」「英語できちんと話をし、外交官の手を借りずに自分でどんどん会うべき人に予約を取っちゃう」などと語りました。上川さんの後見人のような立場になろうという思惑が透けて見えます。 ただこの発言で「上川は終わった」と見ている自民党の議員も少なくない。上川さんがなにかと話題になるので「上川なにするものぞ」といった妬み、嫉(そね)みの空気が生まれている。 野党の幹部も比較的早い時期に上川さんに注目しましたが、それは総裁になられると困るからです。与党も野党もそれぞれの思惑の中で上川総裁路線を潰そうとして、あえて名前を挙げている面があります。 それだけ警戒感があるということですが、現実問題としては、上川さんが総裁になるのはなかなか難しい。派閥解消前は岸田派(宏池会)に所属していたため、岸田総理に対抗して出馬する選択肢はなく、岸田氏不出馬でも上川さんに派閥の票がつくかどうかは未知数です。