〈追悼・篠山紀信〉「カメラマンっていうのは泥棒なんだよ!」“時代”を撮り続けた写真家の、知られざる “食”へのこだわりと人柄
「カメラマンっていうのは泥棒なんだよ!」
やっぱり突き抜けた人だったと思う。音楽もお好きだったけど、ジャズの人だった。チャールズ・ミンガスっぽいグルーヴ感があってね。スウィング感を教わった。 一緒にニューヨークに行った時に、チャイナタウンに露天商のおばさんがいて、篠山さんがレンズを向けたら「絶対撮るな!」って言うんだよ。そしたら篠山さんが僕に「横に立て!」って言って、僕がおばさんの横に立ったら僕にレンズを向けて、シャッター押す瞬間にパッておばさんだけを撮ったの。 「すごいですね!」って言ったら、「お前な、カメラマンっていうのは泥棒なんだよ! 撮りたいものは撮らなきゃダメなんだよ!」って(笑) 今まで、いろんな人と長く仕事したし、いろんな人と長く付き合ったけど、本当に忘れ難い人だね。 誰も、ロバート・キャパとか、リチャード・アヴェドンとか、デヴィット・ベイリーとか、名だたるスター写真家の列に並べようとしないけど、篠山さんはそこに並べるべき人だったと思う。篠山さんもスター写真家なんだよね。篠山さんは「俺は芸術写真なんか撮ってない」ってよく言っていたけど、芸術かどうかじゃなくて、写真家として撮ったものが「時代」を写していた。 それはすごいことで、あそこまで見事に「時代」を撮った人はいないと思う。 例えば、普段政治家の写真をとっているような人は、アイドルの写真は撮らない。でも、篠山さんにとっては、山口百恵も、佐藤栄作も一緒なんだよね。その許容量がやっぱりすごかった。新宿2丁目でも、旅芸人でも、すごく格式の高い文化人や政治家でも、ヌードモデルでも、それもこれも、一度撮っちゃうとやっぱり篠山さんの写真だからね。 やっぱりそういうところは「東京」の人だからだと思う。雑多で猥雑なものと、綺麗なもの、全部がミクスチャーされている中で過ごしてきた人。 東京育ちのアーティストって、YMOとかもそうだけど、明るくて、軽くて、お茶目なんだよね。江戸っ子だからこそ、作品もエッチな感じがして、すごく好きだった。「エロ」じゃなくて「エッチ」。「エロ」よりも可愛らしい感じ。どぎつくはない。暗くない。だから、あれだけヌード作品とかを撮っていても、一般的に売れたんじゃないかな。暗くてドロっとしていたら、あそこまで大衆に受けていなかったんだと思う。 だからこそ、暗い姿は見たくなかったな。やっぱり、ディズニーランドでミッキーマウスと一緒に笑って写っているっていう、ああいうのが「篠山紀信」なんだと思う。