<イラン核開発の懸念>機能しなくなった監視、ガザ戦争の間隙を縫って加速化か
中東諸国への波及の懸念
この3月4日付けのIAEA事務局長の報告は日本ではあまり報道されていないようだが、報告の通りIAEAがイランの核開発に対して継続的なモニタリングが出来なくなったとすれば、極めて重大かつ深刻な事態である。IAEAがイランの核開発を継続的にモニタリング出来ないということは、イランが極秘裏に核兵器を製造しても分からないということを意味する。 昨年10月以来、出口が見えないガザの衝突に目を奪われてイランの核開発問題への国際的関心が薄れていたのは事実であり、今回、IAEA事務局長の報告によりイランの核開発問題はのっぴきならない状況になっていることが判明した。しかし、ガザの衝突が続く中で、11月の米大統領選挙で再選を狙うバイデン大統領がこのタイミングで新たな国際紛争を起こすことには消極的であろうからイランに対して強硬策を取る事は不可能であろう。
ガザの衝突の陰でイランの核開発問題は、ぎりぎりのところにまで来ている。但し、イランは弾道ミサイルに核弾頭を搭載するために必要な爆縮型原爆の起爆装置の開発が終わっていないのではないかと思われ、もう暫く時間がかかるのではないか。 北朝鮮も起爆装置の開発には相当時間がかかっている。しかし、IAEAの査察監視体制が機能しなくなったとすると起爆装置の開発も加速化されるかも知れない。 われわれはガザの衝突に目を奪われているが、その陰で深刻な事態が進んでいる。イランの核武装だけでも十分問題だが、イランの核武装は、サウジアラビア(ムハンマド同国皇太子は、「イランが核武装すればサウジも核武装する」と繰り返している)等の他の中東諸国の核武装化の引き金となろう。
「もしトラ」への懸念
イラン人は賢く、バイデン政権の様な常識的、理性的な相手の出方を良く読んでいる。現時点ではバイデン政権が、大統領選挙絡みで強くは出てこないと見切って挑発を繰り返し、バイデンは翻弄されている。 次期米大統領にトランプ前大統領が選出される可能性が高まっている中、彼の「予測不可能性」はイランの苦手とするところであり、「もしトラ」の前に、(技術的に可能ならば)核武装や中東からの米国の排除等を一気に事を進めようとする可能性は排除されない。
岡崎研究所