政府は資産運用立国の前に「所得倍増計画」を 国民は投資よりも節約、銀行預金を選好し「悪循環」に
【森永康平の経済闘論】 政府が東京・大阪・福岡・北海道の4都市を「金融・資産運用特区」に指定すると発表した。これは昨年12月に発表した「資産運用立国実現プラン」に基づいたものだ。 【表】「4人家族で1カ月に必要な金額」京都総評の試算と内訳 日本には昨年末時点で2100兆円を超える家計の金融資産があり、その半分以上が現預金として保有されている。この一部を投資に向かわせることで、企業価値が向上していき、その恩恵が株高や配当を通じて家計に還元される。これによってさらなる投資や消費が発生し、家計の勤労所得に加えて金融資産所得も増やしていく流れを創出し、「成長と分配の好循環」を実現していく方針だ。 しかし、今回発表された施策内容をみてみると、期待しているようなシナリオが現実のものになるのか不安になってしまう。 海外法人が日本に進出する際の社会保険などの手続きを2024年度中に英語だけで完結できるようにする。現時点では英語による資産運用業者の登録手続きの支援拠点は東京だけにあるが、これを他の3都市にも設置するという。 言語の壁が取り除かれることは一歩前進だが、それだけではアジアの金融ハブのポジションをシンガポールや香港から奪還することは不可能だろう。本件において、何よりも重要な国税の減免措置が抜け落ちている。キャピタルゲインへの課税や法人税の税率を引き下げない限り、海外の資産運用業者を誘致することは難しいだろう。 もともと証券会社や運用会社に勤めていた筆者からすれば、日本がアジアの金融ハブになれば感慨深いものではあるが、正直いまやるべき施策なのかという疑問を持たざるを得ない。 足元では実質賃金が過去最長となる25カ月連続のマイナスを記録しており、国内総生産(GDP)の内訳をみても民間消費はリーマン・ショック以来となる4四半期連続のマイナスだ。このような状況下で日銀による追加利上げの観測が高まり、着実に金利は上昇している。財政政策をみても物足りない定額減税以外は負担増政策ばかりだ。このままいけば、多くの国民は節約に走り、投資に資金を振り向けるのは一部の富裕層のみとなるだろう。 また、このような環境下で金利上昇が続いてしまうと、個人は金融資産の置き場として、リスクの高い株式や投資信託よりも、従前より金利が上昇している銀行預金を選好してしまうのではないか。
■森永康平(もりなが こうへい) 経済アナリスト。1985年生まれ、運用会社や証券会社で日本の中小型株のアナリストや新興国市場のストラテジストを担当。金融教育ベンチャーのマネネを創業し、CEOを務める。アマチュアで格闘技の試合にも出場している。著書に父、森永卓郎氏との共著『親子ゼニ問答』(角川新書)など。