取材に応じる女性。「今までの生活に戻りたいだけ」と話す＝10月9日、広島市中区（矢田幸己撮影）

広島市西区の市道交差点で9月、道路が陥没し建物が傾くなどした事故で、現場直近の市営住宅で暮らしていた30代女性が産経新聞の取材に応じた。自身は病気で働けず、幼い子供には発達障害がある。10月26日で事故発生から1カ月。思わぬ形で日常が一変し、生活再建の見通しは立たないままだ。行政は支援するというが、対応の遅さは否めず、やるせなさが募る。 【写真】女性と子供が住んでいた市営住宅の部屋。事故で壁に亀裂が入った 10月6日、現場近くの市立観音小学校で行われた地元向けの説明会。女性ら出席者133人を前に、市と工事を受注した共同企業体（JV）の担当者から主に復旧工事の内容などが伝えられた。 もっとも、女性が知りたいのはそんなことではなかった。元の生活に戻るため、どこまで手助けをしてくれるのか。見通しや基準などは示されなかった。 質疑では、努めて冷静さを保ち、思いをぶつけた。 「荷物を運び出す際、建物内は命の危険を伴う状態と書かれた紙にサインを求められるが、ヘルメットの貸し出しすらないのでしょうか」 JVの担当者は謝罪し、その後、対応は改められた。 事故は9月26日午前8時40分ごろ、同市西区福島町の交差点で道路の陥没と浸水が起き、市営住宅を含む周囲の建物が傾いた。事故当時、市が委託したJVが、陥没地点の地下約30メートルで工事のためシールド機による掘削を行っており、市は工事と事故の因果関係を認めている。 ■変わり果て… 事故当日の朝、テレビを眺めていた年長の子供が叫んだ。「ママ、壁にひびが入ってる」。何が起こったのか瞬時には分からなかったが、建物が「ピキピキ」と鳴っている。身の危険を察し、着の身着のまま部屋を飛び出た。地面のアスファルトは隆起して割れ、路上に水が噴き出していた。 子供には注意欠陥・多動性障害（ADHD）と自閉スペクトラム症（ASD）の発達障害に加え、食物アレルギーもある。避難所での生活は本人が耐えられそうもないと、同日中に県内に住む母親宅へ身を寄せた。先だって市側には「重要な連絡があれば電話をください」と伝えていたが、翌日開かれた初回の住民説明会の案内は届かなかった。 貴重品を取り出すため、部屋に足を踏み入れたのは事故の2日後。壁の亀裂は当初より深くなり、傾き度合いも明らかにきつくなっていた。変わり果てたわが家を目の当たりにし、「恐怖で鼓動が早くなり、息も上がった」と振り返る。