「それでも犯人の死刑は望まない」銃乱射事件で最愛の家族を奪われ、生活が一変した女性の苦悩 遺族が語るアメリカの死刑制度(前編)
2011年10月12日、アメリカ・カリフォルニア州ロサンゼルス郊外、シールビーチにある美容室に1人の男が入ってきた。男は客がいる店内で銃を出し、何発も発砲。店員ら8人が死亡した。逮捕された男、スコット・エバンス・デクライ受刑者が狙ったのは、この美容室で働く元妻だ。2人は子どもの親権を巡って争っていた。元妻は殺害され、ほかの7人は巻き添えだった。 ベス・ウェッブさん(62)は事件で妹のローラさんを失い、母親も重傷を負った。4カ月前に結婚したばかりのローラさんはこの美容室で働き、デクライ受刑者の元妻とは同僚。母親のハティさんは客としてたまたま居合わせたところ、銃撃を受けた。何の落ち度もない最愛の家族を奪われたが、それでもウェッブさんは、デクライ受刑者の死刑を「望まない」と語る。なぜなのか。(共同通信=今村未生) ▽過去最悪の銃撃事件 ロサンゼルスから南に約60キロ、サーファーたちが1年中集うハンティントンビーチから程近い静かな住宅街にウェッブさんは暮らす。一帯はオレンジ・カウンティ(オレンジ郡)と呼ばれ、ディズニーランドや、大リーグの大谷翔平選手が所属するエンゼルスの本拠地がある。
私が訪ねた昨年10月下旬、ハロウィンを控えて多くの家が飾り付けをしていた。中でも一際目立っていたのがウェッブさんの家だ。大掛かりなハロウィンの飾りと、11月の中間選挙に向けて候補者を応援する看板が立てられていた。ウェッブさんは熱心な民主党支持者。夫婦ともどもバイク乗りという。 ウェッブさんは写真を手に「シールビーチ銃撃事件」について説明を始めた。 「こちらが妹のローラ。そして、こちらがローラの親友。2人とも事件で亡くなった。ローラは46歳だった」 ウェッブさんにとって、妹が働く美容室は大好きな場所だった。「ゴシップや笑い、下品なジョークが飛び交っていて、最高に楽しかった」 「母は胸と腕を撃たれたが、肺に弾は当たらなかった。ただ、腕の骨が砕けてしまって、6回ほど手術をした」 母のハティさんはロサンゼルス・ドジャースの大ファン。大リーグの試合では7回の攻守交代の際に、「私を野球に連れてって」という定番の曲が流れ、ファンが立ち上がって歌う。歌の途中で手を挙げ、指で1、2、3と示すのがお決まりだが、ハティさんの左腕は事件後、思い通りに動かない。